肺がん治療に新たな選択肢 2種の薬の組み合わせで余命が延びる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 肺がん治療で新たな選択肢が生まれた。近大医学部付属病院腫瘍内科主任教授の中川和彦医師に話を聞いた。

 肺がんは、小細胞がんと非小細胞がんの2つのタイプに分かれる。このうち非小細胞がんは、遺伝子変異が原因となっているものがあり、どの遺伝子変異かで治療が異なる。

 今回、新たな治療の選択肢が登場したのは、非小細胞肺がんのうち「EGFR遺伝子変異陽性」で、手術不能または再発がん。ステージでいえばⅣ期の進行がんだ。

「2002年に初の分子標的薬EGFR―TKIが登場して以降、非小細胞肺がんⅣ期でEGFR遺伝子変異陽性の場合、EGFR―TKIが第一選択肢でした」

 現在、EGFR―TKIは全部で5種類。最初の「ゲフィチニブ」は副作用が少なく腫瘍が小さくなる一方で、患者の半数は10カ月ほどで薬が効かなくなる。特定の耐性遺伝子が現れるからだ。

 その後に第2世代として登場したEGFR―TKIは副作用が強いなどの問題点があった。ところが16年、T790M耐性遺伝子が加わった肺がんにも有効な「オシメルチニブ」という第3世代の薬が登場した。

「経口薬で副作用も少ない。そこでEGFR遺伝子変異陽性肺がんに最初からオシメルチニブを使ってみると有効で再増悪までの期間が2倍長くなることが分かりました。そのため、多くのEGFR遺伝子変異陽性肺がん患者がオシメルチニブを最初から選ぶことが増えた。ただし効きづらいタイプもあり、治療成績の改善が望まれていました」

 EGFR遺伝子変異陽性肺がんは、「エクソン19欠失」と「L858R点突然変異」に分類される。エクソン19欠失はオシメルチニブの効き目がいいが、L858Rではエクソン19欠失と比べると効き目が落ちる。

「オシメルチニブの無増悪生存期間(病気の進行を止めた期間)の中央値では、エクソン19欠失は21・4カ月、L858Rは14・4カ月になります」

 オシメルチニブ以外のEGFR―TKIなら、T790M耐性遺伝子によって効き目が悪くなった場合、耐性遺伝子の入ったがんに有効なオシメルチニブに切り替えられる。

 一方、オシメルチニブが効かなければ、耐性遺伝子の問題ではないので、別のEGFR―TKIに切り替えられない。

■薬が効きにくかったタイプにも効果的

 しかし国際共同試験「RELAY試験」で、新たな治療選択肢が生まれた。それは、「ラムシルマブ」という抗VEGF剤と、「エルロチニブ」というEGFR―TKIを併用する治療法だ。

 EGFR遺伝子変異陽性肺がんでは、新生血管が作られやすい。VEGFという血管内皮細胞増殖因子の発現が促されるからで、新生血管によってがんに栄養が送られ、がんが増殖する。

 抗VEGF抗体薬は新生血管ができるのを抑制し、がんの増殖を阻害する。そしてEGFR―TKIとの併用で相乗的にがんの増殖をより抑制できることがRELAY試験で証明されたのだ。

「着目すべきは、EGFR―TKI単剤では効き目が悪かったL858Rに対しても、エクソン19欠失と同様、効き目がよかった点です」

 ラムシルマブとエルロチニブ併用では、エクソン19欠失は19・6カ月、L858Rは19・4カ月とほぼ同じ結果。

 ちなみにEGFR―TKI単剤では、最もよく効いた場合でL858Rの患者群では14・4カ月。この新しい2剤併用療法なら、T790M耐性遺伝子によって効果がなくなっても、その後にオシメルチニブという手が残る。 

 使いやすさや副作用の問題からこの2剤併用がベストとはならないが、予後が良くない肺がんⅣ期で治療選択肢が増える意味は大きい。

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