低血糖は、糖尿病の薬物治療を受けている人すべてに起きる可能性のある緊急状態です。
糖尿病の治療は言うまでもなく、血糖値を下げるのが目的です。
しかし、下げ過ぎてはいけない。薬が、食後に血糖値が高くなった時だけに効けばいいのですが、そうでない時にも効果を発揮します。
つまり、低血糖を予防するのは非常に困難で、糖尿病治療を受けている人はみな、低血糖のリスクについてしっかりと認識しておく必要があります。
低血糖は食事のタイミング、食事の量、運動量、薬の種類、用量などが影響して起こります。
血糖値が70㎎/デシリットル以下になると、まず交感神経症状が出てきます。冷や汗やふるえ、動悸などです。
■重篤な後遺症が出るケースも
さらに低血糖が続くと、目まいや集中力低下などの中枢神経症状が出てきます。
この段階までにブドウ糖や、以前に当欄で紹介した点鼻剤のグルカゴン(血糖値を上げるホルモン)で対処しなければ、意識レベルが低下して自分で対処できなくなる重症低血糖に至ります。重症低血糖は死につながる可能性がありますし、認知機能の低下など重篤な後遺症が出るケースもあります。
低血糖が厄介なのは、非典型的な症状が出てくる場合や、自覚症状がない場合があることです。特に無自覚の低血糖では、速やかな対処をしようがなく、重症低血糖になりやすい。
無自覚の低血糖を起こしやすいのは、高齢者、低血糖を何度も起こしている人、低血糖を起こしやすいタイプの薬(SU薬、インスリン注射薬)を使っていてHbA1cが低過ぎる人です。
重症低血糖を起こしやすい人は特に、万が一のことを考えて、家族など身近にいる人に「〇〇〇のような状態になったら、意識がある場合はブドウ糖の摂取を。意識がない場合はグルカゴンを使うか、救急車を呼んで」と伝えておきましょう。ブドウ糖がなければ、甘い清涼飲料水や砂糖でも構いません。ただし、糖尿病の薬の種類によってはブドウ糖でなければならない場合もあります。
糖尿病患者用IDカードも持っておくといいかもしれません。公益社団法人「日本糖尿病協会」が発行する名刺サイズのカードで、重症低血糖など緊急時に、糖尿病患者であることを周囲に示し、適切な処置を速やかに受けられるようにするものです。
低血糖対策としては、ひとつは薬の見直しです。前述の通り、SU薬やインスリン注射薬は低血糖を起こしやすい。これらの薬は下限値が設定されており、HbA1cが6・5~7・5%を下回れば、薬の調整の検討をします。
ただ、SU薬を使わないと血糖値がなかなか下がらない患者さんがいるのも確か。血糖値が下がったからと、SU薬から別の薬に切り替えた途端、HbA1cがめちゃくちゃ高くなってしまう。糖尿病治療を専門にしている医師なら、なんとかSU薬を使わないで血糖コントロールをしようと知恵を絞りますが、昔から漠然とSU薬を使っている医師では、「血糖値を下げるためにはやむを得ない」とSU薬を使い続けるかもしれません。
高齢者の低血糖対策では、その人に応じた血糖値やHbA1cの目標値を掲げることも大切です。日常生活動作(ADL)や飲んでいる薬などによって目標数値は異なります。あえて、少し高めのHbA1cを目指すことも。40~50代から糖尿病の薬物治療を続けている人は、65歳を越えたら、これまでの血糖値やHbA1cの目標値のままでいいのか、かかりつけ医に相談してみましょう。低血糖はあらゆる合併症の発症に関与すると報告されています。
自己血糖測定器や持続血糖測定器などで血糖値の変動をチェックすることも、低血糖対策に役立ちますよ。