注射で「アトピー性皮膚炎」を治療する時代がやって来た

アトピーが注射で治る時代に
アトピーが注射で治る時代に(C)PIXTA

 冬は肌が乾燥し、アトピー性皮膚炎が悪化しやすい季節だ。治療がうまくいかず長年悩んでいる人の中には、アトピー性皮膚炎の積極的な治療を諦めている人もいるかもしれない。しかし、東京慈恵会医科大学皮膚科の石氏陽三医師は、「新しい治療法が登場している。諦めずに受診し、自分に合った治療を見つけて欲しい」と話す。

「いま、アトピー性皮膚炎の治療のパラダイムシフト(その分野で当然と考えられていた認識が劇的に変化すること)が起こっており、注射で“治る”時代になりつつあります」(石氏医師=以下同)

 アトピー性皮膚炎の治療といえば、保湿などのスキンケア、炎症を抑える「ステロイド」や「タクロリムス」といった外用薬、かゆみを抑えるための抗ヒスタミン剤内服の治療が一般的だ。

 しかし、かゆみの経路には2通りある。

 1つはヒスタミンの経路、もう1つはヒスタミン以外の経路で、アトピー性皮膚炎の慢性的なかゆみは、ヒスタミン“以外”の経路が大きく関係している。

 つまり、ヒスタミンの経路にアプローチする抗ヒスタミン剤では、アトピー性皮膚炎のかゆみを十分に抑えることは難しかった。

 そこで2008年に登場したのが、免疫抑制薬「シクロスポリン」の内服療法だ。アトピー性皮膚炎のかゆみに関係するインターロイキン2などのサイトカイン産生を抑制する。対象は重症患者で、腎臓への負担、血圧上昇などの副作用があり、通常のクリニックでは処方が難しかった。

「18年に登場したのがアトピー性皮膚炎治療薬として初の生物学的製剤です。アトピー性皮膚炎のかゆみ物質だと明らかになったインターロイキン4とインターロイキン13のサイトカインの働きを抑え、アトピー性皮膚炎の皮膚内部のTh2細胞の働きを抑制します」

 この生物学的製剤「デュピルマブ」は、2週間ごとの皮下注射で行われる。19年からは在宅自己注射も可能になり、12週間分(6本)を処方してもらえるようになった。

 15歳から受けられ、効き目がいい人では注射後2時間程度でかゆみの軽減を実感。遅い人でも1~2週間でかゆみが改善され、人によっては1カ月くらいで注射と保湿剤だけで保てるようになる。

 ただし、それまで使用していたステロイド外用薬を急に中止すると副腎抑制などの副作用が起こるリスクがあるので、自己判断で薬をやめないこと。

■生まれ変わったようにモチ肌になる人も

「問題点としては、根本治療ではないので、打ち続けなくてはならないのではないかという指摘があり、また1本の薬価が約6・7万円(保険適用で3割負担)と高額です。注射ですので痛みもあります。しかし、少数ではあるものの2~3年の使用で寛解に至り、治療なしでも炎症やかゆみがない状態を保てている人がいます。皮膚の質感が半年から1年でかなり変わり、生まれ変わったようにモチ肌になる人もいます」

「一度でいいからきれいな肌になりたい」と話す人もいるという。

 石氏医師が着目するのは、今後、アトピー性皮膚炎に対するさまざまなタイプの注射薬が出てくることだ。

「かゆみが生じるメカニズムが解明され、難治性だったヒスタミン以外の経路のかゆみが対処できるようになってきたのです。さまざまな注射薬が登場すれば、治療選択肢が増えます」

 さらに、現在「効き目がよくない」と感じている治療法についても、薬の使用量を見直したり、漢方薬を追加したり、衣類の素材を替えたり、汗をかいたらすぐに対処するなどで、症状が軽減する可能性があると指摘する。

 いずれにしろ、アトピー性皮膚炎治療に力を入れている医療機関を一度受診すべきだ。

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