がんと向き合い生きていく

患者と医者は運命共同体 医師の言葉で気持ちが明るくなった

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 今年の正月は、Kさん(64歳・男性)の家には誰も来ませんでした。前立腺がんの手術を受けてから2年、妻に先立たれているKさんは、テレビで箱根駅伝を見ながら、ひとりで過ごしました。

 娘と孫からは、「お正月は行けないけど今年もよろしくね」とスマホの画面越しに挨拶があっただけ。新聞で報じられている新型コロナウイルス、Go To、アメリカ大統領……などの記事を読みながら、Kさんは何かもっと明るい話題が欲しいと思いました。

 昨年暮れに幸先詣をしていたので神社に行くこともありません。それでも、「新年を迎えられたことはありがたいことだ」と思い直しました。手術後も大きな問題はなく、きっとこの分なら今年も春に桜を見ることができそうです。

 年が明けて4日は、2021年最初の診察日でした。通院しているP病院の入り口には、手の消毒の噴霧器があって、「明けましておめでとうございます。マスクの着用をお願いします。院内の滞在時間を極力短くしてください」という大きな掲示があります。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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