ビートルズの食生活から学ぶ健康

菜食主義者のリンゴ・スターが摂取する動物性食品は卵だけ

果物中心の食生活でアンチエイジング
果物中心の食生活でアンチエイジング(C)UPI/ニューズコム/共同通信イメージズ

 ビートルズのドラマーであるリンゴ・スターは1940年生まれです。彼は6歳の時、虫垂炎と腹膜炎を併発し、1年以上入院していたことがあります。また13歳の頃、風邪をこじらせて肺炎になり、さらに胸の疾患(おそらくは肺結核)を引き起こして、この時も1年以上の入院生活を経験しています。病弱であったリンゴですが、2019年の来日公演でも元気な姿を見せてくれています。今年で81歳になるわけですが、引退という言葉はまったく聞かれません。

 1968年2月、ビートルズのメンバー4人は、ヒンズー教由来の瞑想法であるTM法(Transcendental Meditation=超越瞑想)を創始者であるマハリシに習うためにインドを訪れます。リンゴにとっては、肉類をいっさい摂取しないインド風の菜食はつらかったようです。ほかの3人とは違い、1989年まで菜食生活の経験はなかったようです。1981年に映画「007私を愛したスパイ」のボンドガールとして知られる女優のバーバラ・バックと結婚したものの、アルコール依存症に苦しみました。その後リハビリによって依存症を断ち切ります。

「1989年にアルコールをやめて、まともになった」。1996年のあるインタビュー記事の中で彼はそう述べています。以来、生活スタイルを転換し、野菜と果物中心、飲むのは水だけという日々を過ごし始めます。妻のバーバラとともにベジタリアンになったわけです。ポール・マッカートニーに勧められたことがきっかけになったという説もあります。

 リンゴの食生活は「ナチュラルハイジーン」と呼ばれる健康科学のスタイルに似ているかもしれません。「体にとって必要なのはプラント(植物)ベースでホールフード(Whole Food)。つまりは野菜、果物、豆類、穀物、ナッツ類、種子類などを精製加工せずに丸ごと食べる」。これがナチュラルハイジーンの考え方です。

 1995年に来日した頃、リンゴは肉、魚、乳製品、卵などをいっさい取らない「ビーガン」であることが明らかになりました。バーバラ自身は1990年に「安全な食品キャンペーン」に積極的に関わった経歴もあります。またツアー中のリンゴはアシスタントの作ったものを持ち歩いて食べているようです。特にニンジンやビーツほか、さまざまな野菜をミキサーにかけたジュースがお気に入りで、もちろん飲料水にも気を配り、ミネラルウオーターを取るように心がけているようです。

 アルバム「ギブ・モア・ラブ」(2017年)をリリースした時のリンゴの写真を見ると、多くのロックスターの晩年とは異なり、70代後半とはとても思えないほどスタイリッシュな体形です。ポール同様にリンゴも現在はイギリス的な菜食主義者といっていいでしょう。

 また、近年のリンゴは卵こそ食べるものの、動物性の食品はそれだけだそうです。リンゴ・バーバラ夫妻についていえば「フルータリアン(フルーツ食主義者)」のスタイルが色濃い食生活を送っているようです。いずれにしても、肉を食べていた頃に比べると現在の食生活がはるかに健康的であることは間違いありません。

 では、私たちがそれを取り入れるにはどうしたらいいのでしょうか。

 朝食を例にとってみましょう。まず、バナナ1本、キウイフルーツ2個を食べ、紅茶300ミリリットルを飲めばお腹いっぱいになります。それでいて食物繊維は十分で低カロリー、塩分ほぼゼロのヘルシーメニューになります。現在の日本人の食生活の問題点として、塩分過多、食物繊維摂取量の低下が挙げられます。朝食だけでも「リンゴ流」に変えてみてはいかがでしょうか。

松生恒夫

松生恒夫

昭和30(1955)年、東京都出身。松生クリニック院長、医学博士。東京慈恵会医科大学卒。日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。地中海式食生活、漢方療法、音楽療法などを診療に取り入れ、治療効果を上げている。近刊「ビートルズの食卓」(グスコー出版)のほか「『腸寿』で老いを防ぐ」(平凡社)、「寿命をのばしたかったら『便秘』を改善しなさい!」(海竜社)など著書多数。

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