家庭内感染予防に役立つというが…自宅でもマスクは必要か

マスクでは飛沫核やエアロゾルの侵入を止めることはできない
マスクでは飛沫核やエアロゾルの侵入を止めることはできない(C)日刊ゲンダイ

 2度目の緊急事態宣言の発令で、その対象となる1都3県に住む人はもちろん、全国民が気をつけたいのは家庭内でのクラスターを出さないこと。そのために知っておきたいことのひとつが家庭内でのマスクの使い方だ。家庭内でも使うべきとの意見もあるが、本当に家庭内感染予防に役立つのか? 東邦大学医学部名誉教授で予防医学に詳しい東丸貴信医師に聞いた。

「昨年2~3月にイタリアで感染爆発が生じたとき、家庭内感染が広範に広がりました。これは、家庭内隔離などで家庭に感染者がウイルスを持ち込んだためです。このとき武漢で同様の問題を経験した中国から、感染者の家庭内隔離が危険であることが伝えられ、ホテルや公共施設での隔離政策に変更されました。同居人がいる場合、新型コロナウイルス感染者の家庭内隔離は原則禁忌とみなされるようになったのです。ウイルスの飛沫はある程度マスクで抑えられますが、飛沫核・エアロゾルの侵入をマスクで止めることはできません。皆が濃厚接触になる家庭生活では、感染者による家庭内感染の予防は極めて困難です。したがって、家庭内でのマスク使用も、自宅の構造上、換気が難しい場合や感染者との同居が不可避の時などに限ればいいと思います」

 むろん、家族の一員が風邪気味で感染疑いがあるときや、家族外の家庭への訪問があるときは家庭内でもマスク使用が必要となる。

「ただし、感染リスクが高い家族が同居しておらず、換気ができている家ならマスクは必要ないだけでなく、ストレスがたまることになり、かえって危険です」

 実際、マスクを着け続けて息苦しくなったり、ボーッとする経験をしたことのある人もいるはずだ。

「最近、肩がこる、疲れやすい、目がかすむ、頭痛がする、集中力が続かない、朝起きるのがつらい、動悸がするなどの症状が見受けられたら、その原因は体の“酸素不足”かもしれません。コロナ禍で、私たちは長期間にわたって強い精神的ストレスにさらされつづけています。ストレスがあると、ストレスから身を守ろうと無意識に背中を丸めることが多くなりますし、自律神経のうちの『交感神経』も優位に働きます。交感神経が優位になると呼吸が浅くなるので、酸素を十分に取り込めなくなり、全身が軽い酸素不足に陥ってしまうのです」

 家でマスクを使用するときは、外で使用したものはそのまま使わない。また、マスクの表面に触らないなどのマスクの適切な使用はもちろんのこと、手洗い、そして適切な換気は必須だ。

 ちなみに、家にいる時間が長くなると、いやでもテレビなどから新型コロナ関連の情報が目につく。

 しかし、それをただうのみにして恐れるのではなく、健全なる懐疑心を持たなければならない。

 例えば、人の交流や飲食を一時的に制限しても、それのみで感染流行が本格的収束に向かうわけではない。

 それは欧米での再度の感染爆発や世界における昨年来の感染流行の経過が物語っている。

「だからこそ日々の新規感染者の数に一喜一憂せずに新型コロナの報道を正しくとらえ、自分にできる基本的感染症対策に専念しなければなりません。空気感染でも飛沫接触感染でも、感染リスクは病原体の体への侵入量に比例する傾向があります。過度に感染に神経質にならず、頻繁な家具やドアノブのアルコール消毒が必要なのか、外套に付着したウイルスが感染力を持つほどの量なのか、もう一度立ち止まって考えることも必要です」

■この先大事なのは多様な考え方と健全な懐疑心

 また、今後、新規感染者数が落ち着いたとしても気を抜いてはいけない。どこかにウイルスは潜んでいて何かのきっかけで増えることは既に経験済みだ。

「現代はグローバルな高度文明社会であり、経済社会活動を続ける限り、リスクをゼロにできません。そのことも意識しておくべきです。冬はウイルスの活動が活発になり、ヒトの免疫力が低下する。感染者や感染死が増えるのは自然であり、私たちはそのことを受忍しなければなりません」

 ワクチンにも過度な期待は禁物だ。中程度以上の副反応は世界中で3000人程度報告されており、国民の約1割、100万人がファイザーワクチンの接種を受けたイスラエルでは、第1回の接種後200人以上が感染していることが報道された。

 100年前に世界的に大流行したスペイン風邪は落ち着くまでに3年以上かかった。今度も簡単に終わるとは考えにくい。

 この先大事なのは多様な考え方と健全な懐疑心、それと日々の感染症対策を愚直に実行することだ。

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