最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

何をしたくて何をしたくないか…医療スタッフに言葉で伝える

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療を始めようとなった時に、まず最初に行ってほしいのは、医師と治療の進め方に関しての方向性のすり合わせです。

 在宅医療といっても、がんの末期で積極的な治療法ではなく緩和を中心に考えている方もいれば、病院で受けていた治療を自宅で続行する方もいます。認知症の方もいます。

 これまでにも繰り返し述べてきましたが、10人いれば10通りの在宅医療があるのです。それぞれ希望していることも異なるでしょう。

 みなさんは「お医者さんはきっと分かってくれている」と思っているかもしれません。しかし、「以心伝心」というのは、なかなかうまくいかないものです。そのためにも、私たちの診療所の場合、遠方に住むご家族、ご親戚も含めて、患者さん側と医師側の話し合いの場を設けています。その際は、やりたいことや疑問点など、何でも遠慮せずに話してもらうようにしています。それでもお互い思い違いなどがあり、在宅医療を進めていく途中で、軌道修正しつつ行うことは珍しくないのです。

 要望を言葉で伝える。これをぜひ念頭に置いてください。特に「やってほしくないこと」は、はっきりと伝えておくべきです。医師に直接言いにくければ、訪問看護師らほかの医療スタッフに伝える手もあります。

 とはいえ、在宅医療が初めての方がほとんどですから、「希望する在宅医療と言われても……」と戸惑う方もいるでしょう。そこで確認すべきいくつかのポイントを挙げたいと思います。

 まずは、患者さんの容体が急変した場合についてです。患者さんの中には症状が急変したことに不安を抱き、一種のパニック状態になって自ら入院してしまう方もいます。これは、冒頭で述べた「患者さんと医師側との間での治療の方向性に関するすり合わせ」の不足が原因だと言えるものでしょう。

 また、よくあるのが、離れて住む家族が駆けつけて救急車を呼んでしまい、希望していた自宅ではなく、搬送先の病院で最期を迎えるケースです。患者さんは在宅医療について理解していたけれど、離れて住む家族や見守る親戚はそうでなかったことが原因です。

 こういったケースでは、患者さんが希望している内容について、後から「それはよくないんじゃないか?」などと口を挟まれ、患者さんがもともと望んでいたものとは違う形の在宅医療になる可能性もあります。

 容体が急変した時どうするか? 患者さん本人だけでなく、ご家族やご親戚も含めて医師と事前に話し合っておくべきです。

 さらに、日頃から何に不安を感じているか? 何がしたいか? これは在宅医療開始時だけでなく、折に触れ、医師側に伝えてください。

 体の痛みや薬への不安のほか、金銭的な悩み、末期がんなどでは家族を残していくことの不安……。「来月の娘の結婚式にはなんとしても出たい」「家族と温泉旅行をしたい」「最期に大好きなワインを味わいたい」といったことなど、療養生活全般にわたる、気になることすべてです。

 最高の在宅医療とは、患者さん、ご家族、医師側が思いをすり合わせ、一丸となってつくりあげていくものなのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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