自殺防止に役立つか ほぼ毎日のLINEが「コロナうつ」に関係

1都3県で緊急事態宣言が発令されたが…
1都3県で緊急事態宣言が発令されたが…(C)日刊ゲンダイ

 10年ぶりの自殺者数の増加が報じられるなど、新型コロナウイルスによる“コロナうつ”などのメンタル不調が懸念される。その実態把握を目的とした最新の大規模調査「第3波直前の我が国における、コロナ禍でのうつ状態と自殺念慮に関するリスクの検討」の結果が昨年末に発表された。研究責任者である東京歯科大学・宗未来准教授(精神科医)に話を聞いた。

 この調査は、経産省のシンクタンクである経済産業研究所が昨年10月末に約2万人を対象に実施したもので、うつ病(うつ病水準の重度うつ状態)や自殺念慮と、コロナ禍での経済状態、運動や生活の習慣、コミュニケーションなどの危険因子との関係を明らかにしたものだ。

「着目すべき特徴が、3点あります」

 まず、全体的に年収や預貯金が少ないほどうつ病や自殺念慮が増え、「年収200万円未満」「預貯金なし」では自殺念慮がそれぞれ1000万円以上と比べると倍近くにのぼった。男性では低所得者ほど、うつ病や自殺念慮の割合が右肩上がりに増えるのに対して、女性、特に若い女性では年収との関係性は示されなかった。しかし、コロナ禍前より収入が減った場合では男女とも、うつ病や自殺念慮は多かった。

「現状では女性の自殺者増が問題化していますが、女性では収入面に加え、ほかの問題にも目を向ける必要性とともに、今後、倒産やリストラが増えると、経済苦を理由とした男性の自殺者の増加が危惧されます」

 うつ病や自殺は「まさかあの人が……」という人でも起こり得る。うつ病などの危険を少しでも下げるために知っておきたいことが、この調査から読み取れる次の2点になる。

「ひとつは対話の重要性です」

 男性は親、配偶者しか相談相手がいない人が多かったのに対して、女性はそれ以外にも子供、職場外の友人、親族と多岐にわたり、相談相手のいる人では、うつ病や自殺念慮の割合が顕著に低かった。

 注目すべきは、直接顔を合わせての会話だけでなく、LINEやメッセンジャーといったSNS上でのチャットのような対話であっても、ほぼ毎日や週に数回と頻繁にしている人は、40歳以上の中年以降であっても、うつ病や自殺念慮が少なかったことである。

「SNSでは自殺念慮が減る人も強まる人もいるため、精微な検証は必要です。ただし、この調査からはテキストメッセージであっても、きめ細かなやりとりは精神状態にとって望ましい可能性が示唆されました」

■「変化」が良くない可能性

 もうひとつは、生活スタイルや運動との関係。生活が不規則な人ほど、うつ病や自殺念慮の割合が多かった。

「男女とも夕食時間が不規則な人は、うつ病や自殺念慮の割合が高まっていました。女性では就寝時間、男性では仕事や学校の開始時間の不規則さも関係していました」

 生活の不規則化は体内時計が乱れ、うつ病だけでなく、さまざまな心身の不調を招くことは医学的にも知られており、「コロナ禍の過ごし方」として国際学会が共同声明を出しているほどだ。第1波到来の際には、日本うつ病学会からもその翻訳が発表された。今回の研究から、実際の“コロナうつ”に関しても体内時計のメンタルにおける重要性が示唆されたとも言える。

 運動に関しては、特に歩数や運動量が多いからといって、うつ病や自殺念慮が少ないという結果には至らなかった。しかし興味深いのは、「運動量が昨年より減った」人では、うつ病や自殺念慮の割合が高かった点。

「因果関係などの解釈には注意が必要なものの、年収や生活スタイルについても言えますが、『変化』が特に良くないのではないかと考えています」

 コロナ禍収束のめどはつかず、その先行きは誰にもわからない不安定な状況だ。そんな中、心身の健康を保つための土台として、規則正しい生活を送り、困ったことがあればSNSでもよいので連絡を取れる相談相手を充実させていきたい。

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