病気を近づけない体のメンテナンス

食道<上>専門医が教える胃食道逆流症の原因と5つの改善策

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 喉から胃の入り口までをつなぐ、長さ約25センチの管状の臓器「食道」。壁の厚さは約4ミリで、断面として見ると左右約2センチ、前後約1センチの楕円形をしている。食道は普段は平たくつぶれていて、食べ物が通る時だけ大きく広がる。

 食道の上部と下部には「括約筋」という筋肉があり、食べ物を飲み込むと上部の括約筋が開き、食道の壁の筋肉が波のように蠕動運動をすることで強制的に運ばれ、出口に着くと下部の括約筋が開く仕組みになっている。飲み物の場合は蠕動運動ではなく、重力によって胃に運ばれる。

 しかし、通常は食べ物が通過する時以外は閉じている下部の括約筋が加齢や生活習慣などの原因で緩むと、胃液や食べたものが胃から食道に逆流することがある。

 すると、胃液に含まれる「胃酸」の酸度は非常に強いため、食道は胃と違って胃酸の強さに耐えることができず炎症を起こす。

 食道の粘膜に炎症が起きると、さまざまな症状が表れる。そうなると食道の機能は低下し、さらに胃液の逆流を促すという悪循環に陥るのが「胃食道逆流症」という病気だ。

 典型的な症状は「胸やけ」、胃液が口や喉まで逆流してくる「呑酸」、喉の「つかえ感」、胸が締めつけられるように痛い「胸痛」だ。今や日本人の5~10人の1人がかかっていると推定されており、「新国民病」とも呼ばれている。

 消化器病専門医である「山村クリニック」(東京都文京区)の山村進院長が言う。

「胃食道逆流症とは、胃液や食べたものが胃から食道に逆流して起きる病気の総称です。内視鏡検査をして、食道に炎症が認められるものを『逆流性食道炎』、炎症が認められないものを『非びらん性胃食道逆流症』と呼びます。いずれにしても胃液の逆流と停滞で起こり、それには食生活、加齢、姿勢、体形、ストレス、現在の持病や過去の病気など、さまざまな要因が関係します」

■胃がん予防のための除菌が原因になることも…

 関係する過去の病気としては、ピロリ菌の除菌治療を受けたばかりの人。ピロリ菌は胃がんや胃・十二指腸潰瘍の原因になるので除菌した方がいいが、一時的に胃食道逆流症になりやすくなる。

 食道が横隔膜を通っている隙間(食道裂孔)から、胃の上部がはみ出す「食道裂孔ヘルニア」を起こしている人は、胃の入り口部分の締めつけができなくなるので逆流が起こりやすい。糖尿病の人や睡眠時無呼吸症候群の人も胃食道逆流症を合併しやすいとされる。これらの持病の治療・改善も大切になるが、多くの原因は生活習慣に起因するものだ。

「胃液が逆流しやすくなった体そのものを元に戻すことはできませんが、食生活の見直しや身体的な要因の改善などによって逆流を減らし、症状を軽減することは可能です。ポイントは『胃酸を増やさない食生活』と『胃液を逆流させない生活習慣』です。軽症なら、これらを見直すだけでも逆流が起こらなくなる人もいます」

 具体的にどんなことに注意すればいいのか。山村院長はこんなアドバイスをする。

●消化の悪い食べ物は控える

 特に、脂肪分の多い食べ物は胃での滞留時間が長く、胃酸の分泌を活発にさせる。胃に刺激のある香辛料、コーヒー、お酒、炭酸飲料なども取り過ぎに注意。

●食事はよく噛んで、30分以上かけて食べる

 よく噛まない「早食い」や「大食い」は、消化に時間がかかり、胃酸の分泌が増える。一口20回以上噛むようにして、ゆっくり時間をかけて、腹八分目を心がける。

●食後2~3時間は横にならない

 食後は下部食道括約筋が一時的に緩みやすく、胃に食べ物が消化されずにあるので逆流しやすい。夕食は寝る2~3時間前までに済ませる。

「食後、どうしても横になるなら、左側を下にして横向きに寝ると胃が食道よりも下になるので逆流しにくくなります」

●上体を高くして寝る

 胃食道逆流症の人は、眠っている時に逆流が起こりやすくなる。枕で頭だけを高くするのではなく、市販の「三角枕」などを使って上半身全体に傾斜をつける。座布団やタオルなどを使って傾斜をつくる場合は、15度くらいの角度にするといい。

●お腹を圧迫しない生活

 腹部の圧迫は、胃が押されて逆流しやすい。肥満があれば「減量」する。猫背などの悪い姿勢の人は「背筋を伸ばす」ことを意識する。お腹を締めつけるベルトやきついジーンズなどは避けて、「ゆったりした服装」を心がける。湯船に漬かる入浴も腹圧がかかるので、「食事直後の入浴は避ける」ようにしよう。

 次回は、胃液の逆流を防ぐ体のトレーニングを紹介してもらう。

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