ビートルズの食生活から学ぶ健康

いまもポールとリンゴが元気な理由は「菜食中心の食習慣」

若いころは菜食主義とは無縁だった
若いころは菜食主義とは無縁だった(C)共同通信社

 ビートルズの4人は最終的には菜食主義者(ベジタリアン)になりました。ジョージ・ハリスンの場合はヒンズー教の影響、ポール・マッカートニーは動物愛護、ジョン・レノンは玄米を中心とした自然食療法(マクロビオティック)、リンゴ・スターはアルコール依存症克服後の健康志向からの食生活の転換と、それぞれ経緯は違います。しかし、メンバー全員が「菜食中心の食習慣」に40代を前に食を大転換させたことでメタボリック症候群とは無縁の生活を手に入れたといっていいでしょう。

 では、こうした菜食中心の食習慣は、本当に人間の健康維持あるいは長生きに欠かせないものなのでしょうか。米国におけるプロテスタント系のキリスト教の一派であるセブンスデー・アドベンチストの興味深い報告があります。詳細なデータの紹介はここでは省きますが、男女7万人を対象にしたその研究によれば、菜食主義者は非菜食主義者と比較して、肥満の人が少ないばかりか、糖尿病になるリスク、死亡率も低いことが明らかになりました。その理由として、菜食主義者は動物性タンパク質や飽和脂肪酸の摂取量が少なく、食物繊維の摂取量が多いことがあげられています。飽和脂肪酸は人間にとって重要なエネルギー源ではありますが、過多の摂取は生活習慣病をはじめとするさまざまな疾病のリスク要因です。

 また、オックスフォード大学の研究チームは「大腸がんに関する研究」を2004年9月に発表しました。調査開始時、平均年齢33歳を対象に50歳時における大腸がん以外の大腸の病気の発症についても追跡調査を行いました。大腸がんについては、菜食主義者と非菜食主義者での大きな差は認められませんでしたが、がん以外の大腸の疾病に関しては、菜食主義者の発症リスクが低いことが判明しました。

 また果物や野菜、パンなら精製していないライ麦パンを日常的に摂取している群では、そうでない群に比べて大腸の疾病発症の確率が低下するという結果が得られました。菜食主義者と非菜食主義者が日常的に摂取している食材の違い、また肉類の摂取の有無が要因と考えられます。また、ほかの研究でも、菜食主義者のほうが非菜食主義者よりも心肺、血管などの障害やがん発症のリスクが低いことが指摘されています。

 ところで、解散する少し前に菜食中心の食習慣を実践しはじめたビートルズのメンバーですが、暴漢の凶弾に倒れたジョン、肺がんで亡くなったジョージはともかくとして、ポールとリンゴはいまも健在でミュージシャンとしての活動を続けています。ともにメタボとは無縁の体形を保っており、病気の噂も聞こえてきません。とくに長時間のステージで水分補強さえまったくせずに歌い続けるポールの健康と若さは、彼の食生活のたまものといって間違いないでしょう。

 それを実践することはそれほど難しいことではありません。とくに肉類などの動物性食品の摂取量を極力抑え、果物、野菜、豆類、精製されていない穀物などを中心とした食生活を心がけることです。家庭で工夫するのが一番ですが、最近はコンビニやスーパーなどでも、食のアイテムが充実しています。たとえば雑穀米のおにぎり、野菜サラダ、みそ汁、おでん(ダイコン、コンニャク、豆腐)などで菜食中心の食事は可能です。

 完全な菜食主義者になれとはいいません。1週間のうち2、3日でも果物、野菜、豆類、穀物だけのレシピにしてみてはいかがでしょうか。腸はもちろんあなたの体全体が大喜びです。

松生恒夫

松生恒夫

昭和30(1955)年、東京都出身。松生クリニック院長、医学博士。東京慈恵会医科大学卒。日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。地中海式食生活、漢方療法、音楽療法などを診療に取り入れ、治療効果を上げている。近刊「ビートルズの食卓」(グスコー出版)のほか「『腸寿』で老いを防ぐ」(平凡社)、「寿命をのばしたかったら『便秘』を改善しなさい!」(海竜社)など著書多数。

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