変異種が続々発見される新型コロナ 子供たちは大丈夫なのか

写真はイメージ
写真はイメージ

 世界中で新型コロナウイルスの変異種が次々と見つかっている。昨年末に英国で発見され、日本でも存在が確認された変異種は、昨年3月以降に出現した欧州型(D614G)がさらに変異したもので、遺伝情報の「N501Y」に変異が見られた。一方、ブラジルからの渡航者から発見された南アフリカの変異種は、「N501Y」に加えて「E484K」にも変化があるという。いずれも、新型コロナウイルスの表面にある突起物(Sタンパク質)の分子が変化したもので、強力な感染力を持つといわれる。

 新型コロナウイルスは主にSタンパク質をヒトの細胞の表面にあるACE受容体と結合させることで細胞内に侵入。細胞内の器官を乗っ取ってタンパク質を合成しウイルスを増殖させる。Sタンパク質とACE受容体の結合力が高まれば感染力が強まるのは当然だ。変異種の登場で、従来種では比較的“安全”とされた子供たちへの影響はないのか? 東丸貴信東邦大学名誉教授に聞いた。

 変異種の感染力の強さは1日当たりの新規感染者の増加数を見ればわかる。昨年12月3日と今月9日を比べると、英国では1万4878人から5万9937人へ、南アフリカは4400人から2万1606人と短期間で激増している。南アフリカは現在、ウイルスが活性化しにくい夏季にあたるため、激増の要因のひとつに変異種の広がりがあるのは明らかだ。

「とくに気になるのは南アフリカの変異種です。感染に重要なウイルスとヒトの細胞との結合部分に複数の変異があるだけでなく、E484Kの変異は、新型コロナウイルスを中和するモノクローナル抗体からの逃避変異として報告されているからです。しかも、この変異がある人の中和抗体価は10倍低下するとの報告もある。つまり、ヒトの免疫はE484変異を持つウイルスに対して効果が低下する可能性があるということです」

 それは武漢型(614D)や欧州型(N501Y)の流行期に治験して完成したワクチンが必ずしも期待通りの効果が得られないかもしれないことを意味する。

 しかも、E484の変異種に感染したブラジル人女性が同じ変異種に再感染したことが世界で初めて明らかになった。これは、風邪と同じように何度も新型コロナに感染するよう変化した可能性を示唆するものだ。

 いまのところ変異種の毒性は従来種と変わらないというから、今後しばらくはインフルエンザよりも高い病原性を持つ新型コロナウイルス感染症に、より多くの人が何度でも感染する可能性が出てきたということだ。

■この先も安全とは言い切れない

 そこで気になるのは子供たちへの影響だ。従来種では子供への感染リスクは低いといわれたこともあり、4都県に対する7日の緊急事態宣言では、小中高校の一斉休校は要請しないことになった。本当に大丈夫なのか?

「子供に新型コロナ感染症の患者数が少なく、感染しても症状が出にくく重症化しにくい理由は十分解明されているわけではありません。ただ、子供は新型コロナウイルスが細胞に侵入する入り口のACE2受容体の数が少ないことに加え、免疫機能の違いがあることが考えられます。免疫には自然免疫と獲得免疫がありますが、子供は大人よりナチュラルキラー細胞が多いなど、即座に異物を排除する自然免疫が強いといわれています。子供は複数のウイルスに感染する機会が多く、感染後に自然免疫記憶を誘導する訓練免疫状態が効率化し、いろいろな未知のウイルスに対する防御力が強くなっている可能性があるのです」

 一方、大人は獲得免疫が強く、自然免疫は子供ほど強くない。つまり、既知のウイルスに対しては大人が持つ獲得免疫の方がスムーズに動くが、未知のウイルスには子供の自然免疫の方が素早く効率的に動く。そのため、子供は新型コロナウイルスに感染しにくく、かかっても重症化しにくいと考えられているのだ。

 しかも、子供は大人のように加齢により一部が消失するなど血管がゴースト化していない。そのため、ウイルスが血管内へ侵入しにくく、獲得免疫反応の過剰(サイトカインストーム)による全身炎症を起こしにくい。ところが、新型コロナウイルスの変異種は、こうした仕組みを変える可能性があるかもしれない。

「変異種は、少ないACE2受容体からでも感染に十分なほどの細胞侵入ができるのかもしれません。ACE2受容体以外の経路から侵入できる能力を持っている可能性もある。さらに、ウイルスの増殖を抑えるインターフェロンの産出を抑える働きがあるかもしれない。いずれも今後の研究の結果を待たなければなりませんが、これまで子供は軽症だったから今後も大丈夫という保証はありません。今すぐ休校すべきとは思いませんが、子供に感染が広がり、学校が感染源になれば大変なことになる。子供の感染者の変化をより注視すべきでしょう」

関連記事