Dr.中川 がんサバイバーの知恵

BOROが手術に踏み切る腎臓がん 腹部エコー検査で早期発見

シンガー・ソングライターのBOROさん
シンガー・ソングライターのBOROさん(C)共同通信社

「大阪で生まれた女」でおなじみの歌手BOROさん(66)が腎臓がんだと報じられました。3年前に左の腎臓に影が見つかり、経過観察していたところ、昨年1・5センチに。専門医を紹介され、腎臓がんと診断され、手術を受けるそうです。

「早期発見で手術ができ、自覚症状もない。必ず完全復活して、またステージで歌います」

 早期発見で大事に至らなかったのは何よりでしょう。実はBOROさんのようなケースは珍しくありません。健康診断や人間ドックでたまたま見つかったり、ほかの病気で受けた検査で発見されたりするケースが増えているのです。偶然見つかるがんを偶発がんといいます。

 1960年代、腎臓がんで偶発がんの割合は2%ほど。腫瘍が大きくなることによる背中や腹部の痛みやしこり、腫瘍の出血による血尿などの症状で見つかるケースがほとんどでした。

 検査体制の充実によって偶発がんで見つかる割合が年々上昇。今では7割に。それに一役買っているのが、腹部超音波(エコー)検査です。

 腹部エコー検査はお腹の周りにゼリーを塗り、超音波を照射して臓器を調べる検査。たとえばすい臓などは胃や十二指腸に囲まれていて見えにくいのですが、腎臓は見やすい位置にあるほか、腹部エコー検査で必ずチェックされる臓器で、早期に発見されやすい。

 ラッキーなのは、BOROさんのように経過観察しながら、手術など治療のタイミングを計るのが可能なこと。これを監視療法といいます。監視療法は前立腺がんや甲状腺がんでよく知られますが、腎臓がんでも一般的なのです。

 エコー検査のほか、CT検査やMRI検査などを定期的に受けながら腎臓がんの状態をチェックします。がんが十分小さい人だけでなく、高齢やほかの病気の状況などで手術のリスクが高い人も選択肢のひとつです。

 がん治療で名高い米メイヨークリニックの報告では、発見時の腫瘍サイズが2センチ以下の場合、発見時に転移があった割合も、術後3年後に転移が見つかった割合もゼロ。腫瘍サイズが大きくなるにつれて、発見時に転移がある割合も、術後3年後に転移が見つかる割合も高くなります。7センチ以上だと、それぞれ16・5%、43・7%です。

 腫瘍サイズが4センチ以下なら、腎臓の全摘ではなく、腫瘍のみの部分切除ができます。さらに切らずに済む定位放射線治療も保険適用です。いずれも、老廃物や余分な水分の排泄、イオンバランスの調節といった腎臓の機能を守ることができ、偶発がんで見つけるメリットは大きい。

 もちろん、監視療法にも転移や高カルシウム血症などのリスクがありますから、十分な注意が必要です。それでも早期発見のメリットは計り知れません。

 腎臓がんは50~60代の男性に多く、女性の2倍。喫煙と肥満がリスクですから、当てはまる人はしっかりと腹部エコー検査を受けることです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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