進化する糖尿病治療法

寝汗、悪夢、起床時の頭痛、高血糖は夜間低血糖の疑いあり

寝汗や悪夢、起床時の頭痛は要注意 
寝汗や悪夢、起床時の頭痛は要注意 

 今回は「夜間低血糖」について取り上げたいと思います。

 低血糖は、冷や汗、ふるえ、動悸などの症状から始まり、目まいや集中力低下が表れ、さらに低血糖状態が続くと意識レベルが低下。意識消失、異常行動、けいれん、昏睡に至る――この連載で紹介しました。

 大事なのは、意識レベルが低下する前にブドウ糖などを摂取すること。同居するご家族がいる場合は、ご家族も低血糖への理解を深めること。一緒にいる時に糖尿病患者の意識レベルが低下した状態になったら、点鼻グルカゴンを鼻にシュッとするなど、速やかに適切な行動を取ることが低血糖の重症化予防につながります。

 ところが、本人も周囲も低血糖が出てきた時に何の対策も講じられないタイミングがあります。それが夜間低血糖で、睡眠中に起こった場合、眠っていて低血糖に気づかず、補食(血糖値を上げるお菓子などを食べること)やブドウ糖摂取ができません。

 同じベッドで寝ている家族も気づきづらい。糖尿病罹患歴が長いと、夜間低血糖を起こしやすくなります。統計は出ていませんが、夜間低血糖で亡くなっている人はかなり多いと思います。

 夜間低血糖は、起こしやすい、いくつかの原因があります。次に挙げるのは典型的な例です。

 その日、Aさんの在宅勤務が終わったのは夜9時。夕食を食べ始めたのは、いつもより2時間以上遅い夜9時半で、夜に糖質をたくさん取るのは控えようと、ご飯はお茶わん3分の1弱にとどめ、その後に糖尿病の薬を飲みました。

 そして、大好きなウイスキーをちびりちびり。音楽を聴きながら飲んでいたら、飲み過ぎてしまいました。

■就寝中で本人も家族も気づかず命を落とすことも

 お酒を飲んだ後に入浴し、就寝。隣で寝ていた家族がAさんの寝言に驚いて目を覚ましたのが深夜2時くらい。揺り動かしても目を覚まさない。過去にもAさんの夜間低血糖を経験している家族が「今回ももしかして」と思い、点鼻グルカゴンを使用。そして、119番通報。実際、Aさんは夜間低血糖を起こしていたのですが、家族の迅速な判断で事なきを得ました。

 夜間低血糖を起こしやすい原因は、Aさんのケースでいえば、「何も食べないまま遅くまで仕事や家事で忙しく働く」「夕食の量が少ない。特に炭水化物がいつもより少ない」「夕食の時間がいつもより遅い」「お酒をいつもより多く飲む」「入浴」になります。

 これ以外では、「夕食・就寝前のインスリン注射の量がいつもより多かった」「インスリン注射の部位を変えた」「いつもより長く激しい運動をした」など。一般的にはインスリン注射で多いのですが、内服薬でもSU剤を中心に低血糖が起こることがあるので注意が必要です。

 夜間低血糖を起こすと寝汗をたくさんかいたり、嫌な夢を見たりします。

 起きた時の頭痛、朝食後の血糖値が非常に高いなども見られます。

 夜間低血糖を避けるには、リスクを高める行動を少しでも減らす。夕食の時間が遅くなりそうな時は途中でおにぎりを食べてください。また、夜の寝汗、悪夢、起床時の頭痛や血糖値の高さなどがあれば、夜間低血糖を起こしている可能性があります。主治医に相談してください。

 一方、ご家族は、糖尿病患者さんが寝ている間に大汗をかいていたり寝言が頻繁だったりしたら、「低血糖の可能性があるかもしれないから、念のため主治医に相談したら」と伝えてください。 フラッシュグルコースモニタリング(FGM)といって、1日の血糖値の動きを調べられる機器も一般販売されています。それを使ってチェックするのもお勧めです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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