名古屋の老人ホームがコロナ感染拡大を食い止められた理由

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの高齢者福祉施設でのクラスターの報告が相次いでいる。そんな中、迅速な対応で感染拡大を食い止めた施設がある。名古屋市東区の住宅型有料老人ホーム「あんしんせいかつ葵」だ。運営する「メグラス」社長の中島加織氏にどういう対策を取ったのか、話を聞いた。

 昨年11月14日、「あんしんせいかつ葵」の職員が夜勤明けで帰宅したところ、職員の同居人が「コロナ陽性」と判明。職員はすぐに会社に報告し、症状はなかったものの、濃厚接触の疑いで自宅待機となった。

 16日に発熱があったためPCR検査を受け、翌17日にはコロナ陽性が判明した。

「14日に報告を受けてまず行ったのは、夜勤で関わったフロア(3階、4階)をすべて立ち入り制限にする『フロア隔離態勢』です。コロナの潜伏期間を考慮して2週間、フロア隔離は職員も固定し、ほかの職員との接触もなくすよう、施設への入り方からすべて動線を変えました。同時にゾーニングも行い、フロア隔離の利用者は部屋での食事や食事介助、入浴も個別で部屋での清拭としました」

 19日にはフロア隔離の利用者、濃厚接触疑いの職員合わせて25人のPCR検査を実施。全員が陰性と判断されたが、偽陰性の可能性を警戒し、2週間の隔離は継続。利用者と職員の体調管理も続けた。さらに、フロア隔離だけでなく、施設全体(3階から7階すべて)の面会、外部からの立ち入りを禁止した。

 これらの対策マニュアルは、昨年2月から看護師、在宅クリニックの医師と話し合いを何度も行いながら作り上げていたという。加えて、愛知県のステージ表に沿ったステージ表も作成し、毎週、全職員と利用者、利用者の家族にも発信していた。

■根拠のない「たぶん大丈夫」はしない

 重症化リスクの高い高齢者が利用する高齢者福祉施設でのクラスターは増え続けている。

「あんしんせいかつ葵」でクラスター発生を防ぐことができたのは「根拠のない『たぶん大丈夫』はしないこと」だと中島氏は言う。

「もうひとつ挙げるなら、隠さずに情報をオープンにすることで先手先手で動けた点。コロナ感染者が出たときは、風評被害を考えてどうしても隠してしまいがちです。しかしオープンにすることで逆に職員、利用者さま、ご家族さまらの協力を得られたのです」

 厚労省は、施設に陽性者が1人出た場合、職員、利用者を一斉検査するように自治体に求めているが――。

「今回特に感じたのは、利用者さまの検査をすぐにしたいと思っても、病院に行ける人ばかりではありません。寝たきりでご自身では動けない方もたくさんいる施設では、保健所に来てもらい検査をしてもらう必要があります。ただ、保健所もすぐには動けない状態で、検査が遅れる場合があるのです」

 中島氏の「メグラス」には在宅クリニックがあり、すぐに検査を行えた。一方で、そうでない施設もたくさんある。

 また、職員が陽性で運営することができなくなったら、利用者に対してどのような対処をすればいいのかという問題もある。

■決定から実行までスピーディーに対応

「一斉検査をゴールとするのではなく、その後どう対応していくかを自治体が考え、それに対して施設側の対策を考えていくべき」

 コロナ禍での高齢者福祉施設では、家族との面会がままならないことによる利用者の認知機能の低下や、ADL(歩行などの日常生活動作)の低下なども指摘されている。対策として、面会に関してはオンライン面会などで対応できるようにし、ADL低下予防に関しては看護師、リハビリスタッフ、介護士が協力して、利用者に廊下を歩いてもらったり、居室内で手足を動かしてもらったりしている。

「迷っていると後手に回るため、決定から実行まで、とにかくスピードを持って対応しています」と中島氏。職場、そして家庭で、コロナ感染拡大を抑止する参考にしたい。

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