独白 愉快な“病人”たち

虫垂炎のIKKANさん 医師と相談して「切らない」ことを選択

IKKANさん
IKKANさん(C)日刊ゲンダイ
IKKANさん(49歳/声優・俳優・演出家・脚本家)=虫垂炎

 虫垂炎で入院したのは去年の6月1日でした。前日の夕方から腹痛が始まって、家にあった鎮痛剤を飲んでも効かず、気付けば熱も出始めて痛みは徐々に増しました。

 初めは、前の晩に行ったニンニク料理専門店で食べ過ぎたのが原因だろうぐらいにしか考えていなかったのですが、あまりの痛みにただの胃炎ではなさそうだと思い始めました。

 その晩、担当していた声優学校のリモート授業は代行をお願いして、夜通し痛みに耐えまして、朝一番で病院へ行きました。熱は37度5分以下で咳もないことから新型コロナウイルスの疑いからは除外され、血液検査となりました。診察を受け、お腹のどこが痛いかを答えてエコー検査をしたら「腫れてます」ということで、「虫垂炎」が確定したのです。

 大正解だったのは、最初から入院覚悟で病床のある病院を選んだことでした。すでにある程度の準備をして行ったので、「入院しますか?」と聞かれてスムーズに入院できました。

 じつは、こうなる寸前に「帯状疱疹」にもなっていたんです。腰の辺りから始まり、横っ腹、膝裏、脇などがどんどんかゆくなって、ゴールデンウイークが過ぎた頃に病院に行って飲み薬、塗り薬、抗生物質などを使い、やっと治ってきたところだったのです。かゆさが結構なストレスになっていたので、「あ~、治ってきてよかった」と思ったら、お次は虫垂炎……。

 思えばこの1~2年はとてつもないストレスを受けていました。2019年後半から、自作の演劇公演では3連続で僕は作・演出ギャラがゼロでした。主催の公演なので仕方ない部分がありましたが、“ノーギャラショック”もありつつ、そして今後の人材育成に悩みました。なんとかこれから変革していこうと考えていた矢先に新型コロナウイルスの感染拡大です。

 昨年の3月中ごろまでは舞台の打ち合わせもありましたが、志村けんさんが亡くなったのを機に舞台がバタバタ中止になり、僕も決まっていた5、6月公演を取りやめました。

 たまたま僕はパソコンが得意でネット配信などができたので、4月にはリモートライブ公演をいち早く開催しましたが、生のイベントはなくなるし、声優学校の講師の仕事も一時期全部なくなって、スタジオや事務所の維持費が重くのしかかってきました。稽古場も「もう解約するしかない」というギリギリまで追い込まれ、あの頃は楽天家な僕でもさすがに参りました。でも、「本当に苦しかったらこのくらい(の金額)は投資するから」という友人の言葉に気持ちが救われて、そのうち持続化給付金制度が始まってしのぎました。

 もちろん以前のように活動できるのはまだまだ先ですし、綱渡りは続きますけれど、さらにリモートスキルを上げるなどしながら可能性を見つけていこうと思っています。

■もう一度、炎症を起こしたら手術を検討

 ところで肝心の虫垂炎ですけれども、じつはまだ切除していません。温存中です。6月の入院時は虫垂の炎症がひどすぎて手術ができず、とりあえず腫れを小さくしてから手術しましょうということになりました。いったん退院して7~8月の舞台を務め、8月半ばに再度検査をして「これなら手術できる」となったので、8月末には手術する予定で話は進んでいました。

 でも、LINEでそのことを発信すると、知り合いから「盲腸は無用の腸じゃないらしいよ」という反応が返ってきたんです。それが気になってネットで調べてみると、たしかに「盲腸を切った後、3年間は大腸がんのリスクがある」という情報がありました。一般的に虫垂は「現代人にはなくてもいい臓器」と言われていますから、僕も初めはなんのためらいもなく切るつもりでいたんですけど、その決断が揺らぎ、本腰を入れて調べ始め、玉石混交する情報をじっくり精査したうえで医師ともきちんと話し合い、僕の場合は「切らない」という決断をしました。主治医の先生と「もう一度、虫垂が炎症を起こしたら切ろう」という話の下、今に至っています。

 虫垂にはまだ発見されていない重要な役割があって、命を救ってくれることがあるかもしれない。そのときになって「あのとき、切らなきゃよかった」と後悔したくないじゃないですか。

 そもそも虫垂炎になったのは、一連の精神的・身体的なストレスからだと思っているので、そこを用心すれば大丈夫なんじゃないかと考えたりもして、今はストレスをなるべく少なく生きようと努めています。

 ちょっとでもどこかが痛ければ病院に行きますし、知り合いに相談するようになりました。人に相談するのは嫌いだったんですけど、大事に人と付き合っていると、いざというときに手を貸してくれる。友人は大事にしようと思いましたね。まだコロナによる苦しい時期は続くと思いますが、お客さんを応援するのが芸能の役目。いつだって、みなさんにエールを送る立場でいたいと思います。

 (聞き手=松永詠美子)

▽いっかん 1971年、北海道生まれ。声優としてNHK・Eテレやディズニー・チャンネルを中心に多数出演し、声優講師も務める。劇団ツラヌキ怪賊団主宰かつテアトル・エコー所属俳優。サンプラザ中野くんのユーチューブ番組「サンちゃんねる」の演出や、電子漫画ピッコマでの「VOLTAGE~ビューティフル・ランナー~」の原作も手掛けている。2月10~14日に池袋シアターグリーンBOXinBOXで、脚本・演出した舞台、カメジルシ演劇団「まいっちんぐマンガ道」を公演予定。

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