病気を近づけない体のメンテナンス

食道<下>専門医が指南 胃酸を逆流させない体をつくる運動法

胃液が逆流しにくい体を作るのも対策のひとつ
胃液が逆流しにくい体を作るのも対策のひとつ

 日本人の5~10人に1人がかかっているとされ、「新国民病」とも呼ばれている「胃食道逆流症」。食道と胃の境にある「下部食道括約筋」という筋肉の収縮する(閉じる)働きが低下し、強い酸が含まれる胃液が食道に逆流・停滞することで炎症を起こして発症する。

 典型的な症状は「胸やけ」、胃液が喉までこみ上げてくる「呑酸」、喉の「つかえ感」、「胸痛」。下部食道括約筋がゆるんで胃液が逆流する原因は、加齢、食生活、猫背などの悪い姿勢、肥満、ストレスなど、さまざまな要因が関係する。

 予防や症状の改善には、「胃酸を増やさない食生活」や「胃液を逆流させない生活習慣」がポイントになるが、「運動や体操で逆流しにくい体をつくる」ことも対策のひとつになる。消化器病専門医である「山村クリニック」(東京都文京区)の山村進院長が言う。

「胃液の逆流は、多くの人では『早食い』『大食い』などの食事が引き金になります。そのような人は肥満になりやすく、肥満は腹圧が高まるので逆流しやすくなります。ですから運動で肥満を解消することが大切です。それにストレスをため込むことも『やけ食い』『大食い』『大酒』を招くので、運動で自律神経を整えたり、ストレスを解消することも有効です。また、運動によって食道を支えている横隔膜を鍛えることで、加齢による下部食道括約筋の衰えを遅らせることが期待されます」

 ただし、運動にはさまざまな種類があり、激しい運動をした後は胃酸の逆流回数が増えるので逆効果になる。

 運動には、筋肉の収縮に酸素を使う「有酸素運動」と、筋肉にためてある糖質をエネルギー源にする「無酸素運動」がある。

 筋トレやスクワットなどの無酸素運動は、腹圧がかかるので逆流が起こりやすくなる。ランニングやエアロビクスなどの有酸素運動も激しすぎる。ちょうどいいのは「体を少し動かす程度の有酸素運動」。たとえば、ウオーキングや軽いサイクリングなどの息の上がらない程度の運動だ。

 では、室内で簡単にできるトレーニングはないのか。山村院長が勧めるのは、「横隔膜を鍛える」「猫背を直す」「自律神経を整える」の3つを目的としたエクササイズだ。

■横隔膜を鍛える

「横隔膜は『胸腔』と『腹腔』をへだてる膜状の筋肉で、大動脈、大静脈、食道が通る3つの穴が開いています。食道が通る穴の部分には、下部食道括約筋があります。横隔膜を鍛えることは、下部食道括約筋のゆるみを補完できる可能性があります」

【口すぼめ腹式呼吸】

①あおむけに寝て、お腹に本などの重りをのせ、膝を軽く曲げる。手を重りの上と胸に置く。

②この状態で、息を吸ったときお腹をふくらませ、吐いたときにお腹をへこませる「腹式呼吸」を行う。息を鼻から吸って、すぼめた口(口笛を吹くような形)からゆっくり吐き出す。息を吸うときに重りが持ち上がるのを確認、胸はあまり動かないことを確認する。

③リズムがつかめたら、息を吸うときの2倍の時間をかけてゆっくり吐き出す。

 最初は500グラムくらいの重りから始め、1日10回×2セット。慣れてきたら重りや回数を増やす。

■猫背を直す

 猫背は、胃を圧迫して逆流を促す。ストレッチで姿勢を正す。

【猫のポーズ】

①四つん這いになり、お腹を引き上げる。息を吐きながら背中を丸めて、3回呼吸する。

②お腹を落として元に戻し、息を吸いながら背中を反らし、視線を上げてお尻を天井に突き出す。その状態で3回呼吸する。これを1日3~5回×2セット行う。

【サカナのポーズ】

①両足を揃えてあおむけに寝て、背中に枕やクッションを入れる。手のひらは下に向けて、お尻の下に入れる。

②息を吸いながら、胸を天井に向けて持ち上げるように背中を反らす。頭のてっぺんが床につくように首を伸ばし、3回呼吸する。これを1日3~5回×2セット行う。

■自律神経を整える

 仕事などで疲れを感じたら、体の力を抜く体操をすると自律神経を整え、ストレス解消になる。

【腕のハの字運動】

①椅子に座り、腕を下ろしてリラックスする。

②胸を開いて深呼吸を2~3回したら、親指を外側に開くようにして腕を後ろへ引く。

③そのまま腕の力を抜き、腕を前後に軽く振る。【腕のぶらぶら運動】

①立った姿勢で足を肩幅ほどに開く。やや前かがみになり、膝をゆるめ、腕をだらりと下げる。

②その状態で腕の力を抜き心地よく感じるまで腕を左右に大きく振る。膝や股関節を柔らかく使って腕を振るのがコツだ。

 呼吸法や運動は、自分がやりやすいものから気軽に始めてみよう。

関連記事