科学が証明!ストレス解消法

キングカズにならう 嫌みを激励に変える「無効化」のすすめ

キングカズは張本氏の「引退勧告」を「激励」と認識
キングカズは張本氏の「引退勧告」を「激励」と認識(C)日刊ゲンダイ

「いつまでちんたらと仕事をしているんだ」

「君は、この仕事に向いていないんじゃないか?」

 職場で上司からモラハラめいた言葉を投げかけられると、怒りやむなしさを感じてしまいますよね。

 ネガティブなことを言われた時、どう解釈するかでモチベーションはまるで変わってきます。ネガティブな言葉をポジティブになんか解釈できない――。そう思うかもしれませんが、北海道大学の尾崎らの「無効化」という考え方を駆使すれば、ネガティブな言葉と上手に付き合うことができます。

 無効化は、言語学における「言語行為論」という理論を基にしています。私たちの発言は、同時に何らかの行為を成しています。たとえば、「こんにちは」という発言は「あいさつ」という行為を成しており、「ごめんなさい」という発言は「謝罪」という行為を成しています。

 無効化とは、話し手側が発言によって実現しようとしている「攻撃的な行為」を、聞き手側が自らの発言によって別の「行為」にすり替えて、攻撃的な効果を無効にしてしまうことです。

 無効化の好例としてサッカー選手のキングカズこと三浦知良さんの発言があります。

 元プロ野球選手の張本勲氏が、キングカズが現役を続けていることに対して、「若い選手に席を譲らないと。団体競技だから伸び盛りの若い選手が出られない。だから、もうおやめなさい」という発言をしたことがありました。

 この発言を受けて、世間は「余計なお世話」「老害発言」などメディアも巻き込んでの論争になりましたが、当の本人、キングカズは「張本さんほどの方に言われるなんて光栄です。『もっと活躍しろ』って言われているんだなと思う。『これなら引退しなくていいって、オレに言わせてみろ』ってことだと思う」と発言し、張本氏の「侮辱」の言葉を「激励」にすり替えて、攻撃力を完全にそいだのです。この発言には、世間も当の張本氏も絶賛し、無事に落着を迎えました。

 人と人との会話は相互行為であって、誰かが発した言葉の意味は発した瞬間に確定するものではありません。何かを言った時、自分なりに思う意味は頭の中に生まれますが、それは「相手に、こう思ってほしい」というイメージや希望でしかなく、必ずしも他者が自分が意図した意味合いで受け取ってくれるとは限りません。会話における言葉の意味とは、あくまで相手に渡った時に決まるのです。

 であれば、受け取る際に、自分の都合の良いように解釈してしまえばいいのです。「いつまでちんたらと仕事をしているんだ」と言われたら、嫌みと解釈するのではなく、「効率良く仕事ができるように考えろ」と言われている、つまりは「助言」と解釈してみてはいかがでしょうか?

 もちろん、日常的にモラハラまがいの言動を受けているのであれば大問題です。しかし、小言や嫌みの類いであれば、額面通りに受け取って、そのたびに小さなストレスをため込むよりも、無効化してしまった方が精神的に気持ちが楽になるはず。嫌みをそのまま、のみ込まないように!


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堀田秀吾

堀田秀吾

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

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