進化する糖尿病治療法

正確な中性脂肪値を知るのは困難… ニセの数値であることも

脂っこいものばかりはダメ
脂っこいものばかりはダメ

 心筋梗塞や脳卒中など心血管イベントを起こしやすい糖尿病、脂質異常症、高血圧のうち、脂質異常症は「なんとなく、よく分からない病気」という印象がありませんか? 脂質異常症はその名の通り、血管内に脂質が過剰になった病気です。悪玉コレステロール、善玉コレステロール、中性脂肪の数値で脂質異常症かどうかを調べます。

 悪玉コレステロールや善玉コレステロールは体質の影響も大きく、食事内容を多少変えたからといって、数値が大幅に改善することはまれです。

 一方、中性脂肪は食事の影響を受けやすい。数日間、食事内容に気を付ければ数値がガクンと下がるケースは珍しくありません。特に、善玉コレステロール値が低い方は要注意です。

 52歳で脳卒中を起こした男性は、ずっと自分は「健康体」だと思っていました。血糖値、高血圧、悪玉コレステロールはやや高めですが、中性脂肪は、まったく高くなく、基準値内をキープしていました。

 というのも、会社の健康診断前に「準備」を始めるから。約1カ月ほど飲み会は控え、朝はコーヒーだけ、昼は立ち食いそば、夜はご飯抜きのおかずだけ。必死に食事内容を「整える」のです。

 結果、先ほど述べたように数値は基準値内に。健診が終わった後は、お酒は好きなだけ飲み、食事も好きなものを食べる。

 この男性の普段の生活といえば、昼は揚げ物がメインの弁当や立ち食いそば屋の天ぷらそば、丼屋の牛丼やカツ丼が中心。夜はビールやサワーをグビグビ飲み、帰り道にラーメンや牛丼を食べる。とにかく脂っこいものが好物。

 私たち医師が指摘するまでもなく、糖尿病、脂質異常症、高血圧を容易に招くような食生活ですよね。男性も、うっすら気付いていたのでしょう。だからこそ、健診前に「準備」をしていた。しかし、数値では「異常」とならないから、「まぁ、自分は大丈夫だろう」と思っていたのでしょう。

 正しい数値を把握していたら治療によって脳卒中を免れられたかもしれないのに、真実とは違う数値を信じていたために、52歳という若い年齢で脳卒中を起こしてしまったのです。

■健康診断前に酒と脂っこいものを控える人は要注意

 中性脂肪は正確な数値を知るのは難しいから厄介です。極端な話、1カ月のうち28日間ずっと高くても、2日間脂っこい食事を避ければ、低い数値が出てくる。中性脂肪が高いことに気付いていない人は少なからずいると思います。

 さらに中性脂肪が厄介な点は、一日の中でどんどん数値が上がっていく可能性があることです。

 中性脂肪は食後に上昇し、6時間くらいでピークを迎えるといわれています。たとえば、朝7時に朝食を取ると、13時にピークを迎えます。ちょうど昼食の時間ですので、中性脂肪は下がることなくまた上がります。

 昼食後の中性脂肪のピークは19時で、夕食時間と重なり、また数値が上がります。夕食後の中性脂肪がピークを迎えるのは深夜1時。中性脂肪が高くなるような脂っこい食生活を送っている人は、中性脂肪がかなり高いまま一日を過ごしていることになります。

 残念ながら、検査では中性脂肪は空腹時に測定するのが一般的で、食後はチェックしていない。時に食後値のみ高い「隠れ高中性脂肪」もあり、心血管イベント発症に関与しますので、こちらにも注意が必要です。

 空腹時の中性脂肪ですら、正確な数値を把握できていない。食後に関しては、なにをか言わんや、です。自分がどれだけ危険な状態で日々を送っていたか、それをようやく知るのは、脳卒中や心筋梗塞を起こしたときなのです。気を付けていただきたいです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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