がんと向き合い生きていく

死が迫ったとき、「信仰」は本当に恐怖を和らげているのか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 M先生は、出身高校も大学も同じ先輩でした。私が病院に勤めてから初めてお会いし、勤務する科は違いましたが、同じ病院で30年以上たくさんご指導いただき、言い尽くせないほどお世話になりました。

 あるとき、私は仕事がうまくいかずに病院を辞めたいと思って、M先生の部長室を訪ねたことがありました。私が話を切り出す前に、M先生は明るい顔でこんなお話をされました。

「CT画像と原体照射、国際学会でゴールドメダルをいただくことになったよ」

「今、これからのがん治療で、こんな夢を持っているんだ」

 先輩がこれほど頑張っているのに……私は暗に励まされ、何も言い出せないまま、すごすごとM先生の部屋を後にしたことを思い出します。

 M先生は、定年退職された後にステージ3の肺がんを患われ、手術を受けた後、ご自身が専門とされていた放射線治療を受けました。治療後5年が経過して肺がんからは完治されましたが、それから3年ほどで亡くなられました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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