ビートルズの食生活から学ぶ健康

そして、ポールとリンダ夫妻は本格的な菜食主義を選んだ

菜食主義は、動物愛護がきっかけだった
菜食主義は、動物愛護がきっかけだった(C)ロイター/MPTV

 2020年12月、新アルバム「マッカートニーⅢ」がリリースされました。ポール・マッカートニーは、ロックダウン下の英国でもそのエネルギッシュな活動ぶりは健在のようです。

 1968年、すでに菜食主義を始めていたジョージ・ハリスンの影響で、ポールが菜食主義にトライしたことはありました。本格的な菜食主義者になったのは、最初の妻であるリンダと結婚してからのことです。ポールはビートルズ解散後、今は亡きリンダとの結婚を機に、一家でスコットランドの農場に移り住みました。

 それまでロンドンで生活を送ったポールと、ニューヨーカーだったリンダといういわば2人の都市型生活者が、なぜカントリーライフを始めたのでしょうか。想像の域を出ませんが、それまでの生活、ビートルズのメンバーとの軋轢に身も心も疲れ果ててしまっていたのかもしれません。

 リンダ・マッカートニーの著書「リンダ・マッカートニーの地球と私のベジタリアン料理」(文化出版局刊)の中に、ポールとリンダが菜食主義に傾いていった理由がつづられています。

「スコットランドの小さな丘の上のキャンベルタウンの近くにある牧場で暮らしていたときのことです」から始まる箇所に興味深い記述があります。

 ある日の昼時、2人のテーブルの上の皿には、ローストされた子羊の肉が盛られていました。ふと窓の外に目を向けると、草原で楽しそうに遊んでいる羊の姿が目に入ります。彼らが飼っている子羊でした。その瞬間、2人はある思いに駆られます。リンダはこうつづっています。

「そのとき、私たちが食べようとしているものが、外で遊んでいる子羊たちの仲間だということに気づいて、突然おそろしくなってしまったのです」(同書)

 そしてこう続けます。

「生きた動物たちと、お皿に盛られたものを結び付けた瞬間に、もう二度と肉を食べまいと決心しました。この日、ポールと私はベジタリアンになることを決めたのです」(同書)

 ポールはそのことが忘れられなかったのか、後に「メアリーの子羊」という美しい曲を発表しています。1970年代初め、ポールとリンダの食生活は“肉を取らない”スタイルに変わりました。第一に動物愛護への思いからだったことがうかがえます。

 2人は、肉類はもちろん、魚類も取らない菜食主義者になりましたが、子どもの食育についてもリンダは明確に答えており、ポールとの間にもうけた子どもたち全員(1男2女)をベジタリアン食で育てたようです。

 リンダは、その後、ベジタリアン向けの料理本の執筆、冷凍食品の開発、監修なども手掛けることになります。ちなみに、ポールとの間に生まれた娘ステラは後年、ファッションデザイナーになりますが、彼女の作る服には動物の皮革は一切使われていません。

■健康リスクを高める赤身肉の過剰摂取

 さて、ここで肉類の摂取と健康について考えてみましょう。肉類摂取の悪影響を語る時、まず挙げられるのが、動物性脂肪酸です。確かに動物性脂肪酸の過剰摂取は、がん、心臓疾患、糖尿病、高血圧などのリスク要因です。特に赤身肉は、大腸がんのリスクを高めます。ある米国のがん研究機関では、赤身肉の摂取量は1日80グラム以内にすべきとしています。

 現在では、日本人も肉類摂取過多の人が増加傾向にあります。すぐに食生活を転換するのは難しいかもしれません。私自身、ポールとリンダのような完璧な菜食主義を強く勧める考えはありません。

 しかし、患者さんへの健康指導として、1週間21食のうち、特に夕食においては、肉食過多にならないように主菜は肉と魚を1日おきに交互に取るよう進言しています。

 1日平均80グラム以内の赤身肉摂取は実現できるはずです。

松生恒夫

松生恒夫

昭和30(1955)年、東京都出身。松生クリニック院長、医学博士。東京慈恵会医科大学卒。日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。地中海式食生活、漢方療法、音楽療法などを診療に取り入れ、治療効果を上げている。近刊「ビートルズの食卓」(グスコー出版)のほか「『腸寿』で老いを防ぐ」(平凡社)、「寿命をのばしたかったら『便秘』を改善しなさい!」(海竜社)など著書多数。

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