「老衰」が日本人の死因3位に浮上 なぜ増えているのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 日本は65歳以上の高齢者が総人口の28.7%を占める超高齢社会。新型コロナ禍で普段は縁遠く感じている死について考えた人もいるだろう。しかし、あなたがイメージする日本人の死は古いかもしれない。近年日本人の死因が大きく変わったからだ。

 厚労省が発表する人口動態統計の主な死因別に見た死亡率(人口10万対)の年次推移によると、2018年以降は「老衰」が「脳血管疾患」や「肺炎」を押しのけ、「がん」「心疾患」に続いて死因第3位となった。00年には約2万1000人だったのが、18年に約11万人に、19年には約12万2000人に達した。全死亡数の実に9%を占めている。

 なぜ老衰死が増えているのか? 長浜バイオ大学医療情報学の永田宏教授に聞いた。

「理由はいくつか考えられます。ひとつは、社会全体と医療現場が自然死を受け入れるようになったからです。厚労省が発行する『死亡診断書記入マニュアル』によると、老衰とは高齢者で、ほかに記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死とあります。かつて日本の医師は、死因を診断できない老衰は医療の敗北と考えて、死因を老衰とすることを良しとはしなかった。ところが、日本は社会全体の高齢化が進んだうえ、医療現場でも、無理して治療するよりも自然な死を受け入れようという考え方が増えてきた。それが理由だと思います」

 それは胃ろうをする人の減少にも表れている。レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)によると、2011年に比較して17年の胃ろう造設手術数は約半分となっている。

 もうひとつの理由は他の原因で死ぬ人が減ったからだ。

「1970年に年間1万6700人以上だった交通事故死は2019年には3215人となりました。死因トップのがんも15年以降は増加が止まり、37万人台で推移しています。しかも年齢別の死亡率で見ると、50代以下はこの20年間で半分以下に低下していますし、60代以上でも大幅に下がりつつあります。また高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率で見ても、約25%下がっています。心疾患の死亡数も、最近10年は19万人前後で、ほとんど変化していません。つまり死因の1位と2位は、完全に頭打ちになっているのです。医療技術の向上や健康診断の普及により病気が早期発見、早期治療されるようになった。そのこともその一因でしょう」

 そもそも老衰死はなぜ起こるのか?

 それは年を取ると全身の細胞が徐々に死を迎え、細胞分裂による再生が行われなくなるからだ。当然、代謝機能も低下し、異常なタンパク質が多くつくられ、筋肉や心臓や腎臓など各臓器の異常が起きるようになる。

「しかも、老化した細胞から特殊な免疫物質が分泌されることで、周りの細胞の老化が促進されるとともに、全身に炎症が起きるようになります。そうなると、今までできていたことができなくなる、体が痛いなどの症状が表れます。やがて食事をしても体が栄養を受け付けなくなり、全身の機能が衰弱していきます。そして命を維持することができなくなるのです」

■安らかな死にはお金も必要か

 よく、老衰死は苦しみが少なく、平穏だといわれる。それは痛みを感じる感覚器やそれを脳に伝える神経、脳までも他の臓器と同様にその機能を衰えさせるからだ。老衰死する人は、亡くなる5年ほど前から食が細くなり、1年ほど前になるとその傾向がより顕著になる。やがて床に伏すようになり、水分すら取らなくなり、枯れるようにして亡くなるのが一般的だ。また脳の働きが低下するため、認知症を併発する人も少なくない。

 しかし、なかには映画のワンシーンのように眠るように逝くケースもある。先月12日に亡くなった作家・半藤一利さんの死因も老衰で、死の直前まで30分ほど奥さまと会話していたという。07年に亡くなった宮沢喜一元首相も亡くなる日の朝まで新聞を読んでおり、気が付いたら亡くなっていたという。

「老衰死が理想の死と言われるのは、本人も周囲の人も、命を使い切った、生き切った、と思えるからでしょう。家族にとっても突然死と違って、亡くなるまでの時間があるため、死を受け入れやすいのかもしれません。ただし、老衰死した人の場所は病院、老人ホーム、介護老人保健施設、自宅が多いのですが、最近は長期間入院できないことや親の面倒を見られる広い自宅や家族がいないこともあり、病院や自宅は減ってきています」

 幸せな死を迎えるには死を見守ってくれる環境も必要となる。やはりある程度まとまったお金も必要ということか。

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