進化する糖尿病治療法

初の認知症治療薬が登場か?それまで脳を健康に保つ方法

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 認知症は、高齢になればだれでもリスクが高くなる病気です。しかし糖尿病があり、血糖コントロールがうまくできていないと、認知症の発症リスクはより高くなります。糖尿病がある人はそうでない人に比べてアルツハイマー型認知症になるリスクが約1・5倍高く、脳血管性認知症のリスクは2・5倍高いとの報告もあります。

 現在、アルツハイマー型認知症には4種類の薬(アリセプト、レミニール、イクセロンパッチ、リバスタッチ)が認可されています。ただ残念ながら、現在使われている薬は認知症の「治療薬」ではありません。つまり、認知症の進行を遅らせられても、進行を止める効果はなく、最終的に認知症は進行します。症状を劇的に改善させる効果もありません。

 4種類の薬に期待できるのは、脳で生き残っている神経細胞を活性化させ、ある程度の働きを保つことです。認知症症状である記憶障害を緩和する作用も報告されています。脳の神経細胞の活動のバランスを調整し、イライラや不安を少なくするので、生活の質が上がる効果も期待できます。

 治す術がなかった認知症ですが、昨年12月、「アデュカヌマブ」という薬の新薬承認が申請されました。

 行ったのは製薬会社「バイオジェン」と「エーザイ」。

 アルツハイマー型認知症は、アミロイドβペプチドという物質の沈着が引き金となって発症するといわれています。アデュカヌマブの臨床試験では、この薬の投与でアミロイドβペプチドが除去され、アルツハイマー型認知症による軽度認知障害(MCI)および軽度アルツハイマー型認知症の臨床状態の悪化を有意に遅らせられるとの結果が出ています。

 アデュカヌマブは、アルツハイマー型認知症の症状の悪化を抑制し、進行に本源的な変化をもたらす可能性のある、世界で初めての治療薬なのです。すでに米国、欧州で申請され審査が進んでおり、日本はアデュカヌマブの新薬承認が申請された世界で3番目の国になります。

 アデュカヌマブが承認されるかどうかはまだ分からず、承認されたとしても最初から多くの人に投与はされないでしょう。軽度認知障害や軽度アルツハイマー型認知症への効果が見られる薬なので、すでに進行していて使えない人、医学的、金銭的な問題で治療薬を使えない人などもいるでしょう。万人が気軽に使える薬になるまでは、ずいぶんと時間がかかると考えられます。 

 しかし、早期のアルツハイマー型認知症の治療薬は、ほかにも開発が進められています。認知症の治療に希望の光が差し込んできたと言えます。

■難聴によるリスク大

 そうなると、私たちが今すべきなのは、認知症の治療薬が登場するまで、なんとか認知症を発症せずに持ちこたえることではないでしょうか。

 アルツハイマー型認知症に対する危険因子はひとつだけではなく、複数の危険因子が長い人生のさまざまな時期に関係しています。小児期では「教育期間の短さ(8%)」、中年期では「難聴(9%)」「高血圧(2%)」「肥満(1%)」、高齢期では「喫煙(5%)」「抑うつ(4%)」「運動不足(3%)」「社会的孤立(2%)」「糖尿病(1%)」。数字は、その危険因子が完全に排除された場合、認知症の発症がどれだけ抑えられるかを示しています。つまり、これらの危険因子を一つ一つ排除していけば、それだけ認知症を発症する確率が減っていくのです。

 高血圧、肥満、運動不足、糖尿病はいずれも生活習慣病に関係しています。ぜひこれらの排除に努めていただきたい。着目すべきは「難聴」です。9%と、認知症に与える影響が最も大きい。「聞こえ」に何らかの問題を抱えている人は、補聴器の検討を早めに行ってください。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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