A医師は真面目な性格で、夜ベッドに入ってから、その日に診察した患者を振り返るタイプでした。時には、印象深い患者を診察した後、その患者と同じ症状を自分に感じることもありました。たとえば、左頭痛の患者を診た後に「あの診断でよかったのか」などと頭の中で反すうするためか、自身も3日ほど左頭痛を起こしたりするのです。
G看護師を最初に診察した時から、A医師は寝る前に自分で左下腹部を触れ、塊がないかどうかを確認することが多くなりました。そして次第に左下腹部に痛みを感じるようになり、腫瘤が触れるようにも思えてきました。しかし、そのことは誰にも言いませんでした。
さらに、感じる痛みの回数が1日に3回、4回と増えてきました。そしてA医師は「検査はしていないが、自分はきっと大腸がんだろう。1週間後の娘の結婚式が終わったら消化器内科医長に相談しよう」という考えに行き着いたのです。
がんと向き合い生きていく