ニューヨークからお届けします。

免疫療法が効かないがん患者に他人の便を移植してみると…

メラノーマには劇的な効果が(写真はイメージ)/
メラノーマには劇的な効果が(写真はイメージ)/(C)PIXTA

 免疫療法が効かないがん患者の腸内に他人の便を注入したところ、治療に反応するようになったという研究結果がサイエンス誌に掲載され、大きな話題となっています。

 がんの治療法として注目を集める免疫療法ですが、患者によっては期待通りに反応しない場合がありました。たとえば進行したメラノーマ(皮膚がんの一種)では、治療効果が長期にわたり表れるのはわずか4割という数字もあります。

 ピッツバーグ大学病院の研究チームは、免疫療法が効く患者と効かない患者では、腸内の微生物に関係があるのではないかと考えました。そこで治療によく反応したメラノーマ患者の腸内から採取した便を、まったく反応しない15人の患者の腸内に注入。その上で免疫療法を行ったところ、15人中6人に初めて効果が表れました。

 そのうち1人の患者は腫瘍が小さくなるなど劇的な結果を得られ、ほかの5人も病状の進行を抑えられたと報告されています。腸内の微生物が免疫療法に関係があることは、これまでのマウス実験や限定的な臨床実験で明らかになりつつあります。一方、腸内微生物の構成を変えてしまう抗生物質を投与後、免疫療法に反応しにくくなるという研究結果もあります。

 では、実際に微生物がどう免疫療法に影響するのか? 研究チームは被験者の血液と腫瘍の変化を追跡。効果が出た6人の腸内には、これまでの研究から免疫療法に有益と考えられていた微生物がすみついており、血液内にはその微生物に対する抗体が出現していました。微生物への抗体とがんの関係はまだはっきり分かっていませんが、この抗体が体の免疫力を高め、がんを攻撃するのに一役買っているのは間違いないと考えられています。

 今後、どの微生物がベストなのか、また微生物の体内へのベターな注入の方法など、さらなる研究が待たれています。

シェリー めぐみ

シェリー めぐみ

NYハーレムから、激動のアメリカをレポートするジャーナリスト。 ダイバーシティと人種問題、次世代を切りひらくZ世代、変貌するアメリカ政治が得意分野。 早稲稲田大学政経学部卒業後1991年NYに移住、FMラジオディレクターとしてニュース/エンタメ番組を手がけるかたわら、ロッキンオンなどの音楽誌に寄稿。メアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ハービー・ハンコックなど大物ミュージシャンをはじめ、インタビューした相手は2000人を超える。現在フリージャーナリストとして、ラジオ、新聞、ウェブ媒体にて、政治、社会、エンタメなどジャンルを自由自在に横断し、一歩踏みこんだ情報を届けている。 2019年、ミレニアルとZ世代が本音で未来を語る座談会プロジェクト「NYフューチャーラボ」を立ち上げ、最先端を走り続けている。 ホームページURL: https://megumedia.com

関連記事