隠れコロナ患者がいた病院でクラスターが発生しなかった理由

一般人のワクチン接種まで、まだ少し時間がかかるが…
一般人のワクチン接種まで、まだ少し時間がかかるが…(C)ロイター

 新型コロナウイルス感染者(隠れコロナ)が病院内を無制限で行動していたにもかかわらず、クラスターが発生しなかった病院がある。千葉県の東邦鎌谷病院だ。なぜか?

 東邦鎌谷病院消化器内科に83歳の男性が早期胃がんの治療で初めて来院したのは昨年3月28日のこと。4月6日、男性は個室に入院。その3日前から咳、微熱、呼吸困難があったが、クリニックでは気管支炎と診断されていた。男性の容体が急変し、胸部CTでウイルス性肺炎が判明したのは、翌7日。その後、鼻咽頭PCR検査でコロナの確定診断がつき、9日に男性は呼吸不全が進行したため集中治療室のある専門病院に転院。ウイルス性肺炎と診断されるまでの約24時間、男性はマスクなし、病棟スタッフの中にもマスクを装着していない人が数人いた(昨年4月時点では、現在のようにマスク着用は徹底されていなかった)。

 着目すべきは、男性のコロナ感染が判明したのは、内視鏡検査の後だった点だ。内視鏡検査は患者の咳を誘発することがあり、飛沫・接触感染だけでなく、空気感染のリスクもある。

 東邦鎌谷病院総合内科の柳一夫医師が言う。

「内視鏡検査という、エアロゾルを大量に発生させる極めてハイリスクな暴露状態であり、日本の過去の事例から、濃厚接触スタッフは、感染は免れないと予想しました」

 接触数日後、鼻咽頭PCR検査を実施。その結果、東邦鎌谷病院の濃厚接触スタッフ8人、非濃厚接触スタッフ15人、非濃厚接触病棟患者2人は、全員が陰性だった。

■だれでも手軽に入手できる漢方薬を飲んでいた

 クラスターが発生してもまったくおかしくない状況だったにもかかわらず、そうならなかった理由を、柳医師は「荊芥連翹湯」という漢方薬を飲んでいたことが大きいと確信している。

「濃厚接触・非濃厚接触スタッフは全員、感染予防対策として荊芥連翹湯のエキス剤2・5グラムを帰宅後もしくは寝る前に服用していました。さらに感染暴露後は、濃厚接触スタッフ群には服用量を増やし、荊芥連翹湯エキス剤7・5グラムを5日間服用することを勧めました」

 荊芥連翹湯は抗ウイルス効果がある漢方薬で、慢性副鼻腔炎、慢性鼻炎、慢性へんとう炎、にきびの治療に使われる。

 ただ、漢方薬は西洋薬と違い、「病名=◎◎◎という薬」という処方ではなく、症状などから医師が知識、経験、感性を駆使して薬を選ぶ。

「抗ウイルス効果のあるものはほかに葛根湯、麻黄湯、麻黄附子細辛湯、越婢加朮湯などがあります。これまでウイルス感染の患者さんには、一般的な喉鼻風邪は葛根湯、急激な関節痛と高熱のインフルエンザは麻黄湯、目、鼻の症状は荊芥連翹湯で治療し、良好な結果を出してきました」

 柳医師はコロナが日本に上陸したとき、西洋薬の抗ウイルス薬が開発されるまで数年かかると予測し、漢方なら何がいいかと考えたという。

 コロナは初期において微熱、全身倦怠感という全身症状に加え、結膜炎、鼻水、嗅覚異常、味覚異常の目と鼻の症状が表れ、次いで咳、呼吸困難といった下気道症状が表れる。それらを鑑み、選んだのが荊芥連翹湯。入院患者がコロナと判明する前から感染予防薬として準備しており、医療スタッフ、職員らにも周知を徹底していた。

 荊芥連翹湯は適正量の服用であれば、副作用の心配はない。コロナにだれがかかってもおかしくない現状を考えると、荊芥連翹湯を「もしもの場合の薬」として準備しておくのも手だ。市販されているので、気軽に入手できる。

「予防には1パック、PCR検査で陽性で軽症なら1日3パックを1週間、中等症なら2週間の服用。風邪かコロナか分からない場合の服用もいい。コロナを疑う場合は1パック飲み、翌日PCR検査を受けることをお勧めしています」

 西洋薬との禁忌の飲み合わせはない。別に漢方薬を飲んでいる場合は服用時間をずらした方がいいとのこと。また、荊芥連翹湯は食前、食後、空腹時いずれの服用もOKだ。

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