独白 愉快な“病人”たち

脊椎側弯症と闘う手島実優さん 今も背骨に1キロの金属が…

手島実優さん(提供写真)
手島実優さん(女優・23歳)=特発性脊椎側弯症

 14歳の春休みに「特発性脊椎側弯症」の手術を受けました。背中には首から腰まで真っすぐ伸びる400針の手術痕があって、背骨にはチタン製のワイヤやボルトが総重量で1キロほど打ち込まれています。

 側弯症は肋骨や背骨が曲がって左右非対称になってしまう病気です。先天性と特発性があって、特発性は10代の女子が特になりやすいといわれています。

 気づいたのは13歳の頃でした。お風呂に入る時に全身を鏡で見てみると、右のウエストがやけにくびれていて、反対側の左がずんどうだったのです。母親にそのことを言うと、私を前屈させて腰の骨の高さが左右で違うことを確認し、病院に連れていってくれました。通常は学校健診で脊椎側弯症の検診があるそうですが、たまたま私の時は実施されていない時期だったようで発見が遅れたのです。

 地域の総合病院の整形外科を受診すると、曲がりの角度を測られて「特発性脊椎側弯症」の中度寄りの軽度と診断されました。医師からは「まだ治る範囲」と言われ、「今後、コルセットでの矯正を考えておいてください」ぐらいの感じで、急ぐ必要はなさそうでした。

 でも、だんだん腰痛と息苦しさを感じるようになって、同じ姿勢を長く続けにくくなったり、体育座りがつらくなったりしてきました。外側からは分からないのですが、背骨が曲がっていると全部の臓器がギュッと偏って、肺が圧迫されるみたいなのです。

 再び同じ病院を受診すると、地元・群馬の高崎市にある脊椎の専門病院を紹介されました。日本屈指の側弯症の名医がいるとの評判で、県外からも手術を受けにくる患者さんがいるような病院でした。

 すると、症状の進行が予想外に早かったため、すぐに手術が決まりました。

 医師から「今、この手術をしないと一生曲がったままで直立できなくなり、歩行や排泄にも障害が出るだろう」と言われたので、手術を断る理由はありません。

 10代の子供に多い病気なので、学校の長期休みを利用して手術するのが通例のようで、私も春休み期間に入院して手術となりました。

 手術の内容は、曲がって固まってしまった背骨の骨と骨の間を打ち砕いて柔らかくし、再び曲がらないようにボルトを打ち込んでワイヤで真っすぐをキープする……というものです。私の場合は肋骨も歪んでしまっていたので、肋骨を2本切除しました。その肋骨は粉状にして、セメントのように背骨に塗って移植したと聞いています。

 肋骨を切除すると言われた時、「取って大丈夫なんですか?」と思わず主治医に尋ねると、「若いから生えてくる」って言うんです(笑い)。「え?」と思いますよね。でも手術直後はたしかに存在しなかった肋骨が、2年ぐらい経ったらレントゲンに映りますし、今は触って分かるくらいちゃんとあるんです。やっぱり生えたのかな~と思っています。

■背中を丸められないので靴下をはくのが大変

 8時間の手術が終わった後、血腫ができて合併症を起こし、右足だけ感覚がないことが分かりました。それでまた、翌日に血腫を取る手術を受けました。

 残念ながら感覚神経は戻りませんでしたが、運動神経は機能していたので、今こうして歩いたり走ったりができるというわけです。初めは力の入れ方も分からないし、足は見えているけれど触られても何も感じないので、足がないような不思議な感覚でした。

 歩けるようになるまで1カ月くらいかかりました。今も右足は指先に感覚があるだけで、それ以外の部分はすごく分厚い服の上から触られているような感じです。出血するくらいのケガをしているのに気づかないこともあります。上半身は腰からは曲がりますが、背中が丸められません。なので、落ちたものを拾ったり靴下をはいたりするのが大変です。背中が丸められないと、しゃがんだ時のバランスが取れなくて後ろにゴロンと倒れちゃうんです(笑い)。

 手術を受けてから1~2年は、お芝居を続けるかどうか迷いました。自分の体が変わってしまって、体調が安定せず無理ができません。かといって、「体調が悪い」とか「これはできない」などと言えばどう思われてしまうか……。もう二度と仕事をもらえないのではないかと不安になったのです。

 そんな不安を打ち消してくれたのは、高校生になって初めてオーディションに受かった地元映画の撮影現場でした。監督さんをはじめ、大人の方々に手術の話をして「この先、迷っている」ことを相談すると、「お芝居の仕事がダメでも、ほかに仕事はたくさんある。体調をやりくりしないといけないのは誰でも一緒。あなただけが特別じゃないよ」と言われたのです。自分の心の中で“自分がかわいそう”と思っていることを言い当てられた気がしました。その言葉で、「いつまでも“かわいそうな自分”じゃダメだ」と思い直し、「とにかくやれることをやるっきゃない」と気持ちを切り替えることができました。

 今も肩、腰、背中の痛みや頭痛はずっとあります。でも自分のベストな状態をベストなタイミングで発揮できるように常に準備して計算して、途中で「やっぱりできません」とならないように心掛けています。

(聞き手=松永詠美子)

▽手島実優(てしま・みゆう) 1997年、群馬県生まれ。10歳から芝居を始め、中学生で地元のアマチュア劇団に入団し、舞台に出演。フリーペーパー「群馬美少女図鑑」で注目され、地元の自主製作映画やWebムービー、CM、PVなどで活躍。出演映画「赤色彗星倶楽部」「カランコエの花」「21世紀の女の子」が各映画祭の賞を獲得した。昨年はリメーク版「東京ラブストーリー」(FOD/アマゾンプライム)に北川トキコ役で出演。池袋シネマ・ロサ主催「the face」で特集上映も行われた。

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