整形外科を受診しても五十肩が良くならない理由 専門医が指摘

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 肩の痛みはメジャーな悩みだが、「整形外科でも詳しい医師は少なく、十分に診察・治療できていない」と指摘するのは、東京女子医大整形外科肩関節グループの安井謙二医師。話を聞いた。

 安井医師によれば、「五十肩」という病名は、中高年の代表的な肩疾患がきちんと分類されず用いられている現状がある。

「治療では肩痛を痛みのもととなる部位ごとに考える必要があります」

 多いのは、「関節包に主因がある凍結肩」「腱板に原因がある腱板断裂または石灰沈着性腱板炎」「肩甲骨周囲を中心とした身体バランスの乱れから生じた肩痛」。このうちレントゲンで分かるのは石灰沈着性腱板炎のみ。それ以外はどのようにして診断・治療に結びつけるのか?

 まず「凍結肩」は、初期では運動時痛と運動制限があり、時に肩を動かさなくても痛む。夜間痛で寝付けなくなることも。

「関節包とは骨と骨を包み込んでつなぐ靱帯で、肩関節の安定性と可動性という相反する機能が同時に備わった優れた組織です。ここが経年的な使用で炎症を生じた結果、肩痛と著しい可動域制限を生じたのが凍結肩で、『拘縮肩』や『肩関節周囲炎』とも呼ばれています」

 安静痛と夜間痛のある炎症期では、炎症を鎮めるのが最優先だ。

「私は速やかで強力な消炎が期待できるステロイドの関節内注射を比較的積極的に選択し、肩を動かすことは避けるようにしてもらっています」

 炎症期が過ぎ安静痛が治ると、肩はガチガチに固まり、可動可能な範囲を超えて動かそうとすると痛む凍結期になる。

「炎症で変性し伸張性を失って癒着した関節包を伸ばしたり剥がしたりして、動きを再獲得するのが目標。安静や薬は基本的に不要で、リハビリが主です。個人差はありますが、半年から1、2年かけて生活に不自由ない程度に良くなります」

■原因を正しく追求できれば症状は治まる

 次に「腱板断裂」だ。肩の深部にある筋腱4本の総称が腱板で、加齢やケガで断裂し、肩の痛みや可動制限が生じるのが腱板断裂。凍結肩と同じく中高年によくみられる。

 腱板断裂の痛みの性質は動作途中での引っかかった痛みが多い。また断裂が大きくなると肩の主要な動力源が失われ、自分の腕すら持ち上がらなくなることもある。ただ、骨の問題でないためレントゲンでは写らず、画像検査はMRIか超音波検査が用いられる。

「肩の動作は腱板と、その周辺の筋群が共同で行っています。仮に一部の腱が切れても、断裂部で生じた炎症を注射で抑え、残存した腱板を断裂腱の損失を補えるまでリハビリで鍛えられれば、断裂が残ったままでも痛みなく治せます。ただし断裂の大きさやひどさによっては断裂部分をつなぐ手術が必要です」

 痛みもキズも小さく、数日程度の入院で済む関節鏡手術という治療法も確立されている。

 最後に、「身体バランスの乱れから生じた肩痛」だ。肩は肩甲骨を介して背骨や肋骨に付着する筋群で体幹とつながり、さらに背骨は腰で骨盤と連結している。つまり肩の動きは肩甲骨を通じて全身と連携している。たとえば猫背で姿勢が悪いと、肩を動かそうとしても、腕の動きに追随すべき肩甲骨の動きが十分に発揮できず、結局つなぎ目となる肩関節部に負荷がかかり痛みが生じる。

「機能障害による肩の痛みは理学療法士によるリハビリで改善が期待できます。しかし、これこそ画像診断では異常が見つかりません。肩を診るためには、患者さんの体幹の硬さやブレ、何げないしぐさから表情の変化までもチェックしながら、全身の機能にも目を配った診察が不可欠です」

 単なる「五十肩」には聞き慣れた安心感がある一方、難渋している患者にとっては漠然とした不信感がある。言い換えれば、それらを正確に診断できる医療機関なら、長く肩の痛みに苦しまなくて済む可能性が高い。さらば、肩の痛み。

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