病気を近づけない体のメンテナンス

血管<上>循環器専門医が勧める内臓脂肪を減らす運動法2つ

内臓脂肪は燃焼しやすい
内臓脂肪は燃焼しやすい

 心筋(心臓の筋肉)に血液と酸素を送っている冠動脈が詰まって発症する「心筋梗塞」。狭心症から心筋梗塞に移行する場合もあるが、3人に1人は何の前触れもなく起こるといわれる。

 冠動脈が詰まる原因は大きく分けて、「動脈硬化」と「血管の機能異常(痙攣)」の2つがある。

 動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールや脂肪などが沈着して、コブのように盛り上がったプラークができ、血管の通り道が狭くなった状態。薄い膜で覆われているプラークは破れやすく、傷つくとその周りに血栓ができて血管を詰まらせるのだ。

 動脈硬化を進行させる危険因子には、生活習慣病や肥満、喫煙などがある。つまり、これらの危険因子を予防・改善することで動脈硬化の進行を抑えることができる。特に「運動習慣」が強く勧められるのは、なぜなのか。循環器専門医である「すぎおかクリニック」(千葉県船橋市)の杉岡充爾院長が言う。

「私たちの体には、傷付いた血管を修復する機能が備わっています。最近、脂肪を構成している脂肪細胞から、体の働きを調整する物質が多く分泌されていることが分かっています。そのひとつがホルモン様物質の『アディポネクチン』です。この物質には血液に乗って全身を巡り、傷付いている血管を修復したり、血管の炎症や酸化を抑えたりする働きがあります。血液中のアディポネクチンを増やすことが、血管の健康維持に直結するのです」

 脂肪細胞から分泌されるホルモン様物質を増やすことと、運動習慣にどんな関係があるのか。じつは、脂肪細胞は大きくなり過ぎると、途端にアディポネクチンの分泌をストップさせてしまうのだ。

 特に皮下脂肪よりも内臓脂肪が増加すると、アディポネクチンの分泌量が低下するという。

 逆に内臓脂肪が増えると、脂肪細胞は悪玉物質の「悪玉アディポサイトカイン」を大量に分泌するようになる。この悪玉物質は、血栓をできやすくしたり、血圧を上昇させたり、血糖値を下げるインスリンの働きを悪くしたりする。つまり、アディポネクチンの分泌を増やすには、運動習慣で内臓脂肪を減らすことが重要になるわけだ。

「内臓脂肪は皮下脂肪より燃焼しやすいので、定期的に運動すれば必ず減らすことができます。ウオーキングやジョギングなどの有酸素運動は、脂肪燃焼効果が高いので、内臓脂肪を減らすのに効果的です。さらにもっとおすすめなのは『ドローイング』という腹筋トレーニングです。お腹をへこませるだけの簡単な運動ですが、内臓脂肪を減らす効果は抜群です」

【ドローイングのやり方】

①肩幅くらいに足を開いて立ち、お腹をリラックスさせる。②3秒くらいかけて鼻から息を吸い込み、お腹を膨らませる。③次に6秒くらいかけてゆっくりと口から息を吐きながら、お腹を思い切りへこませる。そしてさらに、お腹に力を入れながら2秒息を吐き、お腹をギュッとへこませる。④そのままお腹に力を入れ、お腹をへこませた状態をキープ。このとき息は止めないで、自然呼吸を続ける。30秒を目標に持続する。

 このドローイングは、体勢を変えると鍛えられる場所も変わる。両腕を上げて行うと、お腹の上の方の筋肉が鍛えられる。お腹をへこませた後に体を左や右にひねると、脇腹の筋肉が鍛えられる。

 内臓脂肪を減らすためには、体の表面にある筋肉だけでなく、体幹部にあるインナーマッスルも鍛えるとより効果的。それは背骨・骨盤・太ももの骨をつなぐ「腸腰筋」のトレーニングだ。

「腸腰筋を鍛えると骨盤が安定して体の歪みが取れ、姿勢がよくなります。すると立っていても座っていても、自然にお腹の筋肉に力が入るようになり、内臓脂肪が付きにくく、減りやすくなるのです。腸腰筋を鍛える運動で最も効果的なのは『もも上げ運動』です」

【もも上げ運動のやり方】

①立っていても椅子に座っていてもいい。②背筋を真っすぐ伸ばして、お腹に力を入れて、左右のももを片足ずつできるだけ引き上げる。③ポイントは超スローペースで行うこと。3秒かけてももを持ち上げて、3秒かけて元に戻すようにする。④まずは1日、左右10回ずつを目安に行う。

 次回は、心筋梗塞のもうひとつの原因となる「血管の痙攣」を予防する自律神経のセルフケアを紹介してもらう。

関連記事