コロナ禍の新習慣になったが…過剰な除菌・消毒は病気を招く

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 店舗やエレベーターを利用するたびにアルコール液で手指を消毒し、自宅に帰ったら玄関で除菌スプレーを吹きかける。薬用ハンドソープで頻繁に手を洗い、うがい薬で口内を殺菌し、ドアノブやテーブルをはじめ室内のあらゆる場所を次亜塩素酸水を使って拭き掃除……。新型コロナ禍の新生活では、除菌・消毒の習慣が当たり前になっている。もちろん感染予防は大切だが、やりすぎると手痛いしっぺ返しを食らいかねない。

 国立感染症研究所のデータによると、今シーズンのインフルエンザの発生状況は、例年の1000分の1ほどに激減していて、このまま流行することなく春を迎える可能性が指摘されている。また、感染性胃腸炎やマイコプラズマ肺炎といったほかの感染症の報告も、ほぼすべてが大幅に減っている。

 新型コロナに対する感染対策が一般に広く浸透したことが、ウイルスや細菌によるほかの感染症予防にも有効だというひとつの証しといえる。それだけに、このまま除菌・消毒を徹底する生活習慣が定着する可能性は高い。しかし、そうした新しい生活様式がこれまで以上に進むと、われわれの健康にとって逆効果になりかねない危険がある。東京医科歯科大名誉教授の藤田紘一郎氏(感染免疫学)が言う。

「除菌や消毒によって病気を引き起こす細菌やウイルスへの接触が減っているということは、病気の原因にならないだけでなく、むしろわれわれを守っている細菌も死滅させている可能性が高いといえます。われわれの生活環境には、あらゆる所に無数の細菌が存在していて、そのほとんどが無害です。ヒトに病気を引き起こすような病原菌はごくわずかで、われわれは自分に害のない細菌を取り込んで共存しています。そしてこれらの常在菌の働きのおかげで健康が保たれているのです。行き過ぎた除菌や消毒によってそうした常在菌まで死滅させてしまうと、病気を招く原因になってしまう恐れがあります」

■子供の免疫システムに影響する恐れも

 われわれの体には、口、鼻、胃、腸、皮膚など全身に常在菌が生息している。常在菌にはそれぞれ役割があり、病原菌の侵入を防いだり、免疫バランスを保ったり、必要な栄養素を作り出している。中でもヒトの腸内に100兆個も存在している腸内細菌は、病原菌の排除や免疫力を高めて病気を防ぐ役割や、逆に行き過ぎた免疫を調整して抑える働きも担っていて、糖尿病、動脈硬化、がん、アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー疾患、うつ病の発症にも大きく関係していることがわかっている。

「生息している腸内細菌の種類が多ければ多いほど免疫システムが鍛えられ、病気やアレルギーが発症しづらくなります。健康維持のためには腸内細菌の種類を増やし、腸内細菌叢のバランスを良好にすることが重要なのです。ヒトの腸内細菌の種類は生後3年間ほどでほぼ決まるといわれ、それまでに体内に取り込んだ細菌がIgA抗体とくっついて定着することがわかっています。無菌状態だった母親の胎内から生まれてきた赤ちゃんは、なんでも口に入れてなめ回します。これは、多種多様な細菌を早く体内に取り込んで腸内細菌の種類を増やし、免疫システムを発達させるためだと考えられているのです」(藤田氏)

 新型コロナの感染対策で、これまで以上に除菌や消毒が徹底された新生活が長期間にわたって続くと、身の回りのあらゆる細菌が必要以上に排除されることになる。そうした環境で育った子供は免疫システムに悪影響が出るリスクがある。たとえばスウェーデンの研究では、「手洗いよりも細菌を減らす効果が高い食洗機を使っている家庭の子供は、アレルギー発症リスクが2倍になる」と報告されている。

「新型コロナなど重症化の危険がある感染症への対策はもちろん必要です。しかし、あらゆる場面で除菌や消毒を徹底するのは逆効果です。日常生活では、過度に除菌するような清掃は必要ありませんし、手洗いは殺菌力の強いハンドソープではなく流水で行い、外出先から戻った時、調理や食事の前だけで十分です。うがい薬も頻繁に使わないほうがいい」

 細菌やウイルスを排除しすぎた環境では、われわれも健康に生きられないのだ。

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