Dr.中川 がんサバイバーの知恵

がん患者の新型コロナワクチン接種 治療との兼ね合いは?

池江璃花子選手は最優先接種の対象
池江璃花子選手は最優先接種の対象(代表撮影)

 新型コロナウイルスのワクチン接種が今月17日からスタートしました。今は医療関係者で、その後、高齢者や基礎疾患がある方へと広がっていきます。各種世論調査などをみると、ワクチン接種前は、接種をためらう意見が多くありましたが、接種開始によって前向きな方が増えているのは何よりでしょう。

 そこで今回は、がん患者とコロナワクチンについて取り上げます。ワクチン接種が真っ先に必要なのは、重症化リスクが高い高齢者で、次は基礎疾患がある方です。

 厚労省は、優先接種対象となる基礎疾患を9つに分類。大項目8つ目の中の小項目にがんをリストアップ。そこに記された最優先対象基準は、以下の3つです。

・造血幹細胞移植予定者あるいは移植後半年以降の患者
・白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群などの造血器腫瘍患者
・免疫抑制を伴う抗がん剤治療を受けているもしくは受ける予定の患者

 最初の2つが指しているのはほぼ同じで、要は白血病や悪性リンパ腫などの血液腫瘍の方で、最初はそれで幹細胞移植をされる方のこと。血液腫瘍は免疫抑制が強いし、移植の前処置でも免疫抑制状態になり、感染がとても危険ですから、ワクチン接種が欠かせません。白血病から移植治療で復帰された競泳女子の池江璃花子さんは、これに該当します。

 3つ目は、抗がん剤の影響で免疫抑制状態になる方です。これは、がんの種類を問わず、幅広く使われる薬剤が記載されています。免疫が低下してコロナに感染すると重症化リスクが高く、ワクチン接種が大切です。

 最優先に該当する方は可能なら治療前に接種するのがベストでしょう。接種スケジュールは微妙ですので、治療と接種のタイミングは主治医と相談することです。

 最優先に次ぐ条件2つのうち1つが、免疫抑制を伴わない抗がん剤治療を受けている患者。接種最優先の抗がん剤でなくても、抗がん剤は治療で抗体をつくる力が低下しやすく、感染症対策が求められます。

 こうしてみると、注意すべきは抗がん剤で、ほかの治療はどうなのかという疑問が湧くかもしれません。放射線治療やホルモン療法は、それらに感染リスクを上げるほどの副作用はほとんどありません。決められた接種スケジュールでワクチンを接種してよいと思います。

 日本肺癌学会は18日、コロナについての肺がん治療の改訂版をウェブで公開。その中に設けたワクチンに関する項目には、こんな記述が見られます。

 免疫チェックポイント阻害剤(ICI)については、ワクチン接種後2~3日以内に有害事象が多く発現する傾向があるため、可能ならワクチン接種とICI投与の時期を調整することは考慮されていい。接種を回避するほどのトラブルではなく、接種は基本的に問題ありません。ワクチン接種と治療のタイミングの問題ですから、主治医と相談するのが無難でしょう。

 7割の日本人がワクチンを接種すれば、国内のコロナ禍は収束します。迷っている方も、前向きに接種してください。もちろん私も、3月に受ける予定です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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