最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

口から食べられなくなった時の点滴は苦しみを増幅させる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 口から食べたり水分を取ったりすることが困難になると、点滴をするのが当たり前だと、皆さん思っているのではないでしょうか。

 実際、息を引き取るギリギリまで点滴を行う病院も珍しくはありません。

 一方、在宅医療の場合、患者さんが口から食べられなくなった時には、ご家族に余命について説明し、点滴を続けていたずらに死を先送りせず、点滴を止め、自然にみとっていくことを提案しています。

 一般的に点滴による栄養補給は、治療の見込みのある患者さんであれば、効果を発揮し体を元気にさせる可能性があるのですが、旅立ちを目前とした患者さんでは、点滴による栄養や水分を体が処理できず、むくみや痰の原因になり、結果として患者さんの苦しみにつながりかねません。穏やかな最期を迎えるためには、むしろ点滴がない方がいいのです。

 在宅医療の現場では、患者さんにとって負担となる終末期にならないためにも、ご家族に事前に説明し納得してもらった上で、亡くなる前の点滴はなるべく避けるようにしています。

 しかし、食べられなくなったり飲めなくなった患者さんを目の前にして、「点滴をしない」という選択は、家族にとってとてもつらいことでしょう。でもそれに向き合っていただきたいのです。

 そのためにも、どのような最期が一番いいのか、患者さんと家族でたくさん話し合ってもらいます。迷った時や不安なことがあれば、在宅医療チームがいつでも一緒に考えるようにします。

 末期胆管がんの60歳の男性は、入院から在宅医療に切り替えた当初は治療を諦めきれず、何かをやらずにはいられないという気持ちがひしひしと伝わってきました。それまでも民間療法などさまざまな薬を試しており、積極的に治療に臨んできたのです。ですから点滴も「ぜひぎりぎりまで」とのことでした。

 私たちとしても、患者さんやご家族の意向を無視してまで点滴を止めるわけではありません。しかし前述の通り、点滴は患者さんの苦しみの原因になりかねない。点滴についてだけでなく、呼吸やおしっこの量などが、最期を迎えようとする状態にどのようになるかを丁寧に何度も説明し、その上でもし口や喉が渇いているなと思ったら、氷のかけらをなめさせてあげて、寄り添うだけで患者さんは十分幸せだとお伝えしました。

 すると最初はあれほど点滴へのこだわりを示していた患者さんとご家族が、穏やかな最期を迎えられるありがたさについて納得。点滴をしないことにも同意してくれました。退院から約2カ月後には水分が取れなくなり、おしっこも出なくなり、その2日後に、奥さまと2人の息子さんが見守る中、患者さんは穏やかに息を引き取られました。

 かねてテーラーメードな医療が在宅医療だと伝えてきましたが、病院との大きな違いのひとつに、余命少ない患者さんに行う点滴に対する考え方もあるといえるでしょう。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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