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日本食の摂取状況は認知症リスクのバロメーターになるのか

日本食特有の食材が認知症リスクの低下をもたらす
日本食特有の食材が認知症リスクの低下をもたらす

 認知症の予防に良いと言われる食材は少なくありませんが、その効果を裏付ける質の高い研究データは限られています。大豆、魚、海藻、緑茶など、日本食に特有の食材が認知症リスクの低下をもたらす可能性を報告した研究もありますが、これらの研究では食事内容に関する調査が1回しか行われておらず、その後の食習慣の変化が認知症リスクにどのような影響を与えるのかについてはよく分かっていませんでした。

 そんな中、日本食の摂取状況の変化と認知症リスクの関連性を検討した研究論文が欧州臨床栄養代謝学会誌に2020年12月5日付で掲載されました。この研究では、65歳以上の日本人高齢者3146人が解析の対象となりました。日本食の摂取状況は、米、味噌汁、海藻、漬物、緑黄色野菜、魚、緑茶、牛肉・豚肉の摂取量に基づき0~8点で評価され、この点数の増減と認知症の発症リスクが検討されています。なお、結果に影響を与えうる年齢、喫煙・飲酒状況など因子で統計的に補正して解析されました。

 平均で5・7年にわたる追跡調査の結果、日本食の摂取状況に変化がなかった人と比べて、大きく減少した人では72%、統計的にも有意に認知症リスクが増加しました。他方で、摂取状況が大きく増加した人では38%、認知症のリスクが低い傾向にありました。

 日本食の摂取が直接的に認知症リスクを低下させているわけではないように思います。日本食を料理し、継続的に食べることができるような人は、そもそも健康状態が良好であるといえるからです。ただ、日本食を毎日食べていたご高齢の方が、出来合いの食事で済ませるようになってきたとしたら、認知機能にも変化が起きているサインと考えることができるかもしれません。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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