Dr.中川 がんサバイバーの知恵

ホリエモンは接種済みのHPVワクチン 男性の効果と料金は?

堀江貴文
堀江貴文(C)日刊ゲンダイ

 いまワクチンの話をすると、新型コロナワクチンを思い出すかもしれません。コロナ禍を根絶するにはワクチン接種が欠かせませんが、今回のテーマはHPVワクチンです。

 HPVは、ヒトパピローマウイルスのことで、HPVワクチンはそのウイルス感染症を予防するためのもの。皆さん、よくご存じなのは、子宮頚がんが代表的でしょう。なんだ女性の話かと思わないでください。男性の話です。

 昨年12月、HPVワクチンのひとつ、ガーダシル(4価)の適応が拡大されました。新たに認められたのが、男性の肛門がんと尖圭コンジローマなのです。どちらもセックスによって感染します。男性から女性に、女性から男性にという具合に、HPVは感染を広げていくので、男性も他人事ではありません。

 当時の適応拡大には外れましたが、HPVに感染すると、のどの咽頭がんと陰茎がんも発症しやすいことが分かっています。咽頭がんの感染者数は子宮頚がんのほぼ2倍で、男女に共通。これはオーラルセックスで広がりますから、男性も接種が無難です。

 俳優の斎藤洋介さんは昨年9月、咽頭がんで急逝されました。がんと診断されたのは、亡くなる2カ月前だったといいます。もし斎藤さんがHPVワクチンを接種していれば、このがんが死因になることはなかったかもしれません。

 その点で興味深いのは、ホリエモンこと堀江貴文さんです。自分のがんを防ぎ、相手にも感染させない目的で、HPVワクチンを接種しています。立派です。

 堀江さんが接種したのは、シルガード9(9価)でした。これは今年2月、女性の子宮がんでの適応が認められたもので、男性は未承認。自費で接種したことになります。

 薬剤名の下のカッコ内の数字に注目してください。がんを発症させるHPVは複数あり、そのうち4つをカバーするのが4価で、9つを防ぐのが9価です。そこで気になるのは、4価と9価のどちらを接種すべきかという点でしょう。

 4価は、HPV関連の発症を6割、9価は同9割を抑えるとされます。この発症抑制効果に着目すれば、男性未承認でも9価に軍配。私も接種するなら9価です。

 どちらも接種は3回受けるのがセオリー。初回から2カ月後、6カ月後で条件は同じ。2回接種でも効果アリとする報告もありますが、正しく接種するのが無難です。

 異なるのは料金で、4価は合計5万円ほど、9価は合計10万円ほど。どちらも安くはありませんが、効果を考えるなら9価です。

 米国や豪州などでは、男女とも9価が定期接種になっています。それが世界の流れです。子宮頚がんはほぼ100%がHPV由来。日本でも、欧米のように男女で9価のHPVワクチン接種が進めば、子宮頚がんが今後、根絶できるはずなのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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