進化する糖尿病治療法

使い勝手は? GLP-1受容体作動薬に世界初の飲み薬が登場

今までは注射薬が主だったが(写真はイメージ)
今までは注射薬が主だったが(写真はイメージ)

 昨年、製造販売が承認された糖尿病の薬に「GLP―1受容体作動薬」の経口薬(商品名は「リベルサス錠」)があります。

 適応は2型糖尿病患者で、1日1回の服用。この薬の前にもGLP―1受容体作動薬はいくつか承認されていますが、いずれも注射薬でした。昨年承認の新薬は経口薬、つまり飲み薬です。GLP―1受容体作動薬の飲み薬は、世界で初めてになります。

「GLP―1」は、もともとは私たちの体の中にあるホルモン。食事をすると小腸からGLP―1が分泌され、これが膵臓に運ばれてインスリンの分泌を促し、血糖値を下げます。GLP―1には、血糖を上昇させるグルカゴンの分泌を抑制させる作用や、脳の視床下部に働きかけて食欲を抑える作用もあります。

 GLP―1受容体作動薬は、GLP―1を体外から補う薬。他の薬の治療で十分にHbA1cが下がらないときに、使用が検討されます。

 前述の通り、GLP―1阻害薬でこれまであったのは、注射薬でした。1日1~2回のものと、週1回のものがあります。臨床試験では、一部の注射薬よりも、今回の飲み薬のGLP―1阻害薬の方が血糖コントロールを改善させるといった結果が出ています。

■治療薬の選択肢が増えるのは非常にありがたいこと

 ただ、現時点では、飲み薬のGLP―1受容体作動薬が患者さんたちによく使われるようになるのはもう少し先かな、というのが私の印象です。飲み薬というのは利点なのですが、薬の成分の吸収率が胃の内容物で低下するため、飲み方に決まりがあるのです。

 それは、「1日のうちの最初の食事、または飲水の前の空腹時に薬を飲み、その後、少なくとも30分間は食事や飲水、ほかの薬の経口摂取を避ける」というもの。朝は、たいていみなさん忙しいですよね。そんな状況で「薬を飲んだ後30分間は食べたり飲んだりできない」のは、なかなか大変です。

 糖尿病患者さんは高血圧や脂質異常症など、ほかの生活習慣病を抱えている人も多く、薬を複数種類服用している人も珍しくありません。他の薬の服用も30分間待たなければならないとなると、これまた一層大変です。この薬のために「時間がないから」と朝食抜きにするのは、特に糖尿病患者さんでは、ぜひとも避けてほしいことです。

 加えて、飲み薬のGLP―1阻害薬は新薬なので、しばらくは2週間に1回、処方のために外来を受診しなければなりません。2週間に1回の通院……は結構な頻度です。

 もちろん、私は飲み薬のGLP―1受容体作動薬を否定しているわけではありません。薬とずっと付き合っていかなければならない糖尿病だからこそ、治療薬の選択肢が増えるのは非常にありがたいこと。それが、薬の飲み忘れ、注射の打ち忘れ回避にもつながるからです。今後、この新薬が臨床現場でどのように使われるようになっていくか、期待を持って随時最新情報をチェックしていきたいと考えています。

 前回の本連載でも書きましたが、薬の飲み忘れ、注射の打ち忘れ、使用タイミングの遅れは、血糖コントロールを悪化させます。命に関わる危険のある低血糖を起こすリスクも高めます。

 飲み忘れや打ち忘れがあるなら、主治医に相談し、患者さん本人が最も使いやすい薬への変更を検討してもらってください。使用回数が少ない薬に替えれば、飲み忘れ、打ち忘れを減らせられるかもしれません。

 ちなみに、未経験者にはハードルが高い自己注射ですが、新しいタイプの注射器は針が見えず、ボタンを押せば1回分の薬が自動的に注入され、注射に慣れていない人でも簡単に正しく、痛みなしで使えます。「実際に使い始めると、なんてことなかった」という声を聞くことが多いです。GLP―1受容体作動薬には週1回でOKの注射薬もありますから、忙しい人には使い勝手がいいのではないでしょうか。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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