独白 愉快な“病人”たち

稲妻のような残像が…叶かずゆきさん語る脳動脈瘤との闘い

叶かずゆきさん
叶かずゆきさん(C)日刊ゲンダイ
叶かずゆきさん(俳優・タレント/48歳)脳動脈瘤

 僕はもう50歳近いおじさんですけど、頭の中には“最新機器”が入っています。というのも、日本ではまだ保険適用されて間もなくて症例の少ない最先端の「脳動脈瘤塞栓デバイス」を使うことに協力したからです。

 脳動脈瘤がわかったのは、2020年11月でした。人間ドックの一環として受けた脳のMRI検査で見つかりました。

「すぐに大きな病院に行かないと……。紹介状を書くからどこの病院にするか言ってほしい」と、かかりつけ医に言われ、慌てて妻とネット検索して脳外科の名医がいそうな都内の大学病院に決めました。

 思いがけない結果でした。じつは19年の初めに頭痛がひどかったので脳と脊髄と腰のMRI検査を受けたのですが、そのときは「異常なし」だったのです。なので、希望も含めて「間違いなんじゃないか」とどこか疑っていました。

 でも、大学病院でもう一度MRI検査をした結果、最初の見立て通り5ミリ大の瘤が1つ確認されて、話はすぐに手術の必要性や、手術のリスク、放置した場合のリスクなどに進んでいきました。最終的に「放置して破裂することを考えれば、手術後の後遺症や合併症のリスクをてんびんにかけても手術をやるべき」という結論に達し、手術を決断しました。

 そこで提案されたのが、例の最新の塞栓デバイスの使用です。僕の瘤のサイズと瘤のある位置がそのデバイスにちょうどマッチするとのことでした。その大学病院でもまだ10人目というレアケース。「もし可能なら、これを入れさせてほしい」と主治医に言われたので、「協力する」という書類にサインしたわけです。

 手術はカテーテルによる血管内手術で、そけい部から頭の方まで細い管を入れるというもの。そして昨年のクリスマスの日に手術を受け、無事に今に至っています。本番の手術は全身麻酔で気づいたら終わっていたのですが、手術の2週間前の血管造影検査が不思議な体験だったのでお話しします。

 血管の状態や瘤の分布を見るため、目的の血管に造影剤を入れ、X線撮影をする検査なのですが、局部麻酔で行われるのですべて意識があるんです。まずは左足のそけい部から動脈にカテーテルが入ります。ちなみに本番は執刀医の立ち位置から右足そけい部が使われると聞きました。

 そしてカテーテルがある程度入ると、「今から造影剤入れます。お尻が熱くなりますので」と言われました。「は?」と驚いていると、ギリギリ我慢できるくらいの熱いお湯がズワーンと腰の辺りを通りすぎるような感覚がしました。一瞬ですが、かなり熱いんです。

 しばらくすると、「次は左目の辺りが温かくなります」の言葉とともに左目を熱いものが通りすぎ、「次は右目いきます」で右目もズワーンと熱さが通りすぎていきました。痛くはないのですが、稲妻のような残像が目の奥に残ってしまい、それがトラウマのように今でも時々フラッシュバックします。

 造影検査は50分ほどで終わり。ただ動脈に入れたカテーテルを抜いた後は、医師による10分間の止血と別室で4時間の安静が必要でした。その間、左足を動かしてはいけないと言われ、寝返りもできない状態。「つらかったらナースコールを押してください」と言われましたが、忙しそうな看護師さんを呼ぶのが申し訳なくて、トイレに行きたいのを4時間我慢しました(笑い)。

 本番の手術では検査時より太いカテーテルだったので、止血はICU(集中治療室)で丸1日。今度は右足そけい部からカテーテルを入れたので、右足を動かさないことが必須でした。その上、心電図や点滴も数本つながれ、尿道カテーテルの異物感もあるという不自由な1日でした。それでも、術後4日目には退院できました。コロナ禍だったので家族との面会は一切できず、同室の老人が1人、誰にも会えないまま亡くなったのが気の毒で印象に残っています。

■退院した日に自宅で倒れてしまい…

 ちなみに、この病気になって一番怖かったのは、退院した日に家で倒れたことです。家に帰ってお風呂に入り、荷ほどきをしてテレビを見ていたらいつの間にか倒れていて、息ができなくて起きたんです。心臓がドキドキして汗が出て、震えて……。しかも1度だけじゃなかったので、2度目に倒れたときは妻が病院に電話してくれました。症状を説明すると、「過度のストレスからの解放が原因だろう」とのこと。手足のしびれや目が見えないといった症状でなければ心配いらないと聞いてホッとしました。でも、それ以後も時々倒れているので、近々かかりつけ医に全身を調べてもらおうと思っています。

 まだ手術から3カ月弱。最新機器がうまく定着してくれるかどうかの観察中です。ついに、たばこも大大大好きなお酒もやめました。家族を大切に思えば思うほど、健康管理が大事だと実感しています。

(聞き手=松永詠美子)

▽かのう・かずゆき 1972年生まれ。韓国出身。2000年に「吉本新喜劇」の舞台に立ち、同舞台の全国ツアーにも参加。俳優として映画「THE WINDS OF GOD」やドラマ「家栽の人」(テレビ朝日系)などに多数出演している。NHK朝の連続テレビ小説「どんど晴れ」では韓国語出演するなど、語学力を生かして幅広く活躍。13年には日韓友好や文化交流などに貢献したとして韓日文化大賞を受賞している。

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