米食品医薬品局(FDA)は、2月27日に製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)社の新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を許可した。米国での承認は3社目で、接種1回で有効性は66%。冷蔵保存が可能という。
【Q】接種1回が認められたワケは
【A】米国で承認済みのファイザー社、モデルナ社の「メッセンジャー(m)RNAワクチン」は、原則2回接種が必要だ。それに対してJ&J社のワクチンは「ウイルスベクターワクチン」だから、接種は1回で済むという。
「J&Jのワクチンは、人の弱毒化した風邪の26型アデノウイルス(体内では病気を起こさないウイルス)をベクター(運び屋)として使っています。それに、新型コロナウイルスの表面にある突起状のタンパク質(スパイクタンパク質)の遺伝子を挿入したものを注射し、人間の細胞まで運び、抗体を作らせるというものです。英アストラゼネカ社のワクチンも製法や原理は同じですが、J&Jは『26型アデノウイルス』、アストラゼネカは『5型アデノウイルス』を使っています。ちなみにロシアの『スプートニクV』は26型と5型を混合させたものです。いずれも弱毒化しているとはいえ生きたウイルスなので、免疫原性(抗体を作る力)が強いのが特徴。逆に言えばアデノウイルスに対する抗体ができるので、2回接種しても効果がアップする可能性も低いのです。個人的には、アストラゼネカ社製も1回の接種で問題ないと思います」
【Q】米国疾病対策センターは「接種した人同士ならマスクなしでもリスクは低い」と指針を示した。本当にマスクなしで過ごせるのか
【A】「ワクチンには感染症の予防や重症化を防ぐ役割がありますが、接種すれば絶対に感染しないというものではありません。新型コロナウイルスは未知のウイルスであり、変異株の流行も懸念されています。接種後も公共の場や大勢で集まる時は当分は、マスクをした方がよいでしょうね。ワクチンを接種した上で、予防策を行うのがベストです」
厚労省は接種後のマスクの着用はもちろん、3密回避などの継続も呼びかけている。
【Q】なぜ冷凍保存が必要なのか
【A】「mRNAは体内で分解するスピードが速く寿命が短い。傷んでしまって有効性が失われないようにするには、超冷凍(マイナス60~80度)での保存が必要なのです。そのほかのインフルエンザワクチンなど、従来型のワクチンは冷蔵で問題ありません。J&Jのウイルスベクターワクチンも同じです」
【Q】供給不足をカバーするためにインスリン用注射器を使う案が話題になっている。加藤官房長官は「国として広く推奨する予定はない」と断言。果たして使うべきなのか
【A】「一般的な注射器の針の長さは25ミリなのに対し、インスリンの注射器は12・7ミリと短い。これは皮下注射を前提にしているからですが、ファイザー製のワクチンは筋肉の深い場所に接種する必要があります。肥満の方や筋肉量の少ないお年寄りなどに適切に接種するには、針の長さが重要。接種前にエコー検査を行い、皮下脂肪の厚さを測ってから接種する案なども報道されていますが、現実的に、現場ではそのような手間はかけられないでしょう」
医療機器メーカー・テルモは先日、「7回接種できる注射器を開発した」と発表した。もともと筋肉に到達する針の長さが確保されている注射器なら問題ないが、高齢者のワクチン接種開始予定まで1カ月しかない。
問題は山積だ。
新型コロナワクチンの疑問に答える