新型コロナの後遺症には「血栓」が大きく関わっている

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 日本では新型コロナウイルスの感染者が44万人を超えているが、死亡者は約8300人で欧米諸国に比べると大幅に少ない。しかも、死亡者は70歳以上の高齢者が9割近くを占めていて、30代は11人、20代は3人しか確認されていない。ほとんどが軽症か無症状で回復していることもあり、「新型コロナに感染しても大したことはない」と楽観視する声も聞こえてくる。だが、新型コロナ感染症から回復しても、後遺症を訴えている人が増えており、コロナ後遺症の専門外来を設置するクリニックや病院が出てきている。

 国立国際医療研究センターの調査によると、退院したコロナ患者の約76%が後遺症を訴えているという。症状は「倦怠感」が最も多く、ほかに「気分の落ち込み」「思考力の低下」「頭痛」「息苦しさ」「体の痛み」「不眠」「動悸」「食欲不振」「嗅覚障害」「脱毛」「味覚障害」など多岐にわたる。また、後遺症を訴える患者は20~40代が多いというデータもある。

 こうした後遺症がなぜ起こるのかまだはっきりわかっていないが、一因として考えられているのが「血栓」だという。

 中等症~軽症の新型コロナ患者を受け入れている江戸川病院の加藤正二郎院長が言う。

「新型コロナウイルスに感染した患者さんは、血管内で血液の塊が生じる『血栓症』が起こっている割合が明らかに多い。できた血栓が体内のあちこちの血管に詰まって血流が悪化することで、倦怠感、頭痛、食欲不振、めまい、動悸、息切れ、脱毛といった後遺症につながっているのではないかと考えられます」

■退院後にだるさを訴える患者を検査すると…

 新型コロナ患者に対し、血栓症の診断時などに用いられている「Dダイマー」の測定を行うと、大きな血栓があるレベルの高い値を示すケースが多いという。Dダイマーは、凝固反応によって生じた血栓が分解された際にできる最終的な分解産物で、体の中のどこかに血栓があると数値が高くなる。

「一般的に正常値は1.0(μg/ミリリットル)とされていて、10.0以上であればエコー検査を行うなどして血管内に大きな血栓があるかどうかを調べます。新型コロナでは入院する段階で5~10という患者さんがたくさんいて、中には30~40というケースや70まで高くなっていた患者さんもいました。ただ、エコー検査を行ってみると、明らかに大きな血栓は見当たらないことがほとんどです。となると、脳をはじめ全身の微細な血管に小さな血栓が多く生じているのではないかと考えられます」(加藤院長)

 入院時だけでなく回復期にかけてもDダイマーが上昇する患者もいる。退院後、だるさが続いていると訴えて外来を受診した患者のDダイマーを計測すると30だったケースもあったという。

「江戸川病院では、入院している新型コロナの患者さんのほぼ全例で、血栓の形成を防ぐために血液をサラサラにする抗凝固剤を使った治療も並行して行っています。現段階では、回復して退院した患者さんには基本的に抗凝固剤の内服はしていませんが、今後は後遺症の軽減、またはさらなる血栓予防のために必要になるかもしれません」(加藤院長)

 新型コロナに感染するとなぜ血栓ができるのかについては、サイトカイン、血管内皮障害、ウイルスのS抗原自体が血栓を呼びやすい構造をしていることなどが考えられている。

 ウイルスがわれわれの体内に侵入すると、ウイルスを撃退するために炎症性サイトカインが血中で上昇する。サイトカインには血管の透過性を上げる作用があるため、血液が漏れないように止血の役割を担う血小板が多く集まり、血栓が作られやすくなってしまう。また、ウイルスが血管の最内層を覆っている血管内皮細胞を傷つけることで、抗血栓性分子の発現量が低下したり、血小板が凝集を起こしやすくなって血栓が形成される。

「まだはっきりしていませんが、ウイルスそのものだけではなく、感染によって作られた抗体が血管を攻撃している可能性もあります。血中に抗リン脂質抗体という自己抗体ができて、血栓症や習慣流産などの妊娠合併症を起こす『抗リン脂質抗体症候群』のような状態を招いているケースも考えられます。もしも感染してしまったら、免疫を調整する薬を使って炎症を小さくコントロールしてもらうこと、血液凝固を適宜検査して適切な抗凝固療法を行ってもらうことが後遺症を軽減するために大切だと思います」(加藤院長)

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