コロナ第4波に備える最新知識

ワクチンで重症化する人は抗体に特殊な糖鎖がついていない?

ワクチン接種をする医療従事者
ワクチン接種をする医療従事者(C)ロイター

 ワクチンを打つ主な目的は3つある。感染症に①自分がかからないため②かかっても症状が軽く済むため③周りの人にうつさないためだ。ワクチンを打つことで、あらかじめ細菌やウイルスに対する免疫反応を人工的に起こして抗体を作りだす。そのことで、この3つの目的を達成する。

 ところが、ワクチンで抗体を作りだしさえすれば細菌やウイルスが撃退できるわけではない。実際、ワクチンで抗コロナウイルス抗体が大量に誘導されても、重症化する人もいれば、抗体が少なくても回復する人もいる。動物のコロナウイルスでは、ウイルスに対する抗体によって重症化することを「抗体依存性感染増強」(ADE)と言い、動物ウイルス学者の間では常識だ。SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)の研究でもADEが報告されている。抗体には良い抗体(中和抗体)だけでなく、悪い抗体も存在するのだ。

 ADEはウイルスが抗体を介して細胞に感染する現象を指すのだが、通常は細胞に存在する抗体受容体がADEを仲介すると考えられてきた。

 2020年12月18日付の「bioRxiv」に掲載された大阪大学の研究グループの報告では、新しいADEメカニズムが提唱されている。同グループは新型コロナに感染するとできる抗体を人工的に約70種類作成。これらの抗体を加えて、新型コロナウイルスがヒトの細胞に侵入する際に使う「スパイク」と呼ばれる突起と、細胞の表面タンパク質の結合の強さが変わるかどうかを実験した。結果、スパイクと表面タンパク質の結合を強め、新型コロナウイルスの感染力を高める抗体の存在を明らかにした。つまり、抗体によってはスパイクの構造が変わって結合を強め、感染しやすくなる可能性があるというのだ。

■「サイエンス誌」に注目の論文

 さらに興味深い報告がある。世界的権威のある「サイエンス誌」に2021年2月26日付で掲載された論文だ。オランダの研究所が投稿したもので、タイトルは「Afucosylated IgG characterizes enveloped viral responses & correlates with COVID-19 severity」。新型コロナウイルス(SARS-CoV2)に対する抗体の「フコシル化」の程度と重症度との相関を調べたもので、重症化している人ではフコシル化されていない抗体の比率が高まっていることを示した。

 抗体はタンパク質でできているが、実はその抗体に「糖鎖」というものがついている。タンパク質の機能は糖鎖の有無、種類によって異なることが知られている。抗体でもそれがあるというのだ。

 フコシル化とは、糖鎖修飾のひとつ。免疫機能や肺機能に重要であるのに加え、肺がん、肝がん、膵臓がんなど多くのがんで発現が上昇することがわかっている。

 新型コロナの場合、スパイクタンパク質に対してフコシル化がついていない抗体は急性呼吸窮迫症を発症した重症例で多く、軽症で止まった患者では最初からフコシル化の程度が高いという。さらに、フコシル化抗体と、重症化の指標であるIL-6とCRPレベルを調べると、フコシル化の程度と炎症の指標が逆相関していたという。

 つまり、新型コロナの抗体は新型コロナウイルスに感染した細胞を殺すのに役に立っているのだが、ある閾値を超えると最初から強い炎症が誘導され、重症化するのではないか、という仮説が成立するという。

 むろん、これは仮説だが、ワクチンを打って抗体さえできればいい、というわけではないことの一例ではないか。

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