がんと向き合い生きていく

10年前に手術した腎臓のがんが右眉毛の上に転移して現れた

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 泌尿器科部長は、「10年前に右腎がんは切除したが、体内に残っていた腎がん細胞は10年間じっと潜んでいて、今になって右眉毛の上に大きくなってきた」と言います。まったく元気なAさんは、他人事のような、何か夢物語を聞いているような気持ちでした。そして今はどこにも腫瘤はないことから、特に何も治療はせず様子を見ることになりました。

■他のがんには見られない不思議な面がある

 腎がんでは、手術後5年以上経過してから再発する例が少なくないため、長期の経過観察が必要とされています。一般的に、胃がんや大腸がんなどでは、手術後5年以上経過して再発がなければ、完治したと考えるのが普通です。Aさんのように5年以上経ってからの再発は、腎がん以外では乳がんで見られる場合があります。

 腎がんの組織型はその約80%は淡明細胞がんで、CT画像が特徴的なので診断はつきやすいといえます。病期の進み具合によって治療法が決められます。ステージ4で、遠隔転移している場合、全身状態が良好で転移巣の腫瘍量が少ないなどの予後良好と判断される場合は、分子標的薬での治療後に腎摘出が検討されます。転移があっても、薬物投与の後に原発巣を摘出した方が、摘出しない場合よりメリットがある、摘出した方が生存期間が長い傾向が見られたとの報告があるのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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