片頭痛に新薬が登場 原因物質を直接攻撃して痛みを抑える

片頭痛の推定患者数は840万人ともいわれている
片頭痛の推定患者数は840万人ともいわれている(C)日刊ゲンダイ

 頭の片側にズキンズキンとした痛みが起こる片頭痛は推定患者数840万人ともいわれ、いわゆる“頭痛持ちの頭痛”の中で緊張型頭痛に次いで多い。生活習慣に気をつけ、薬を適切に使っていても、十分な効果を得られない人もいたが、今年1月に新薬の製造販売が承認され、注目が集まっている。専門家に聞いた。

「画期的な片頭痛治療薬です」

 こう言うのは、埼玉精神神経センター・埼玉国際頭痛センター長の坂井文彦医師。

 新薬「エムガルティ(一般名・ガルカネズマブ)」は、従来薬とはまったく違うタイプの薬だ。特徴を簡潔に言えば、片頭痛の原因物質に直接アタックする。詳しく説明する前に、片頭痛の発生メカニズムについて触れよう。片頭痛の発生メカニズムについては、さまざまな説が唱えられてきた。今、最も有力視されているのが、三叉神経が刺激されて起こるという説だ。日本頭痛学会代表理事で、独協医科大学副学長の平田幸一医師が言う。

「脳の硬膜及び脳血管周囲の三叉神経に、光、音、気圧の変化など何らかの刺激が加わると、三叉神経の末端からCGRPという物質が放出されます。CGRPは神経ペプチドの一種で、CGRPの放出によって血管が拡張し片頭痛を引き起こします。さらにCGRPは、三叉神経周囲に『神経原性炎症』を起こし、それが疼痛シグナルとなり、大脳皮質で『痛み』として知覚されます」

 片頭痛発作時と非発作時の血中と唾液中のCGRPレベルを調べた研究では、発作時には明らかにCGRPレベルが高く、非発作時には少ないという結果が出ている。

 新薬「エムガルティ」は、片頭痛を引き起こすCGRPに作用する働きを持つ。

「エムガルティは医薬品の中で脚光を浴びているモノクローナル抗体で、病気の標的だけを攻撃します。この新薬を投与することで、片頭痛の標的物質CGRPが三叉神経から放出された直後にブロックされるのです」(冒頭の坂井文彦医師)

■2~4種類の薬で効かなかった人にも効果発揮

 片頭痛の薬物治療は、頭痛が起きたときに薬を使う「急性期治療」のほか、「予防療法」も重要だ。「予防治療薬(発症抑制薬)」を定期的に使用し、発作頻度や重症度などの軽減、そして生活への支障の軽減を目的とする。

 新薬「エムガルティ」は、片頭痛発作の発症を抑制するための薬(予防治療薬)として使われる。

 これまでの予防治療薬「カルシウム拮抗薬」「ベータ遮断薬」「抗うつ薬」「抗てんかん薬」などは、ほかの病気で広く使われている薬を片頭痛の予防治療薬として使っており、どの薬剤をどのように使うかは医師の経験値で決められていた。

 一方、エムガルティは片頭痛の原因物質「CGRP」に直接作用する。つまり、片頭痛発作の発症抑制に絞った予防治療薬で、こういった薬は国内初になる。

「片頭痛治療の強力な助っ人になると期待しています。2~4種類のほかの薬で効果が不十分だった片頭痛患者を対象とした臨床試験では、エムガルティ投与群は1カ月あたりの片頭痛日数(3カ月間の平均)が4・1日減少しました。また、投与1カ月目から片頭痛日数が4日減少し、3カ月間効果を持続しました」(坂井医師)

 エムガルティは月1回の注射薬。つまり、「投与1カ月目から片頭痛日数が4日減少」ということは、投与して速やかに効果を得られる可能性が考えられる。エムガルティは有意に労働生産性の低下を抑えられることも臨床研究で証明された。目立った副作用としては、注射時の痛み。重篤な副作用は報告されていない。重い片頭痛で苦しんできた人にとっては、新たな選択肢が登場した意味は大きいだろう。

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