50代独身男性と80代老親のコロナ闘病記

<1>退院直後の後遺症…母は筋力低下で転倒しても起き上がれず

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 日本の新型コロナウイルスの感染者数は45万人を超え、少なからぬ人が入院している。その中には、中年男性1人で老親の面倒を見ていて、親子ごと感染・入院するケースもある。家族の支援を得られず親子ともども新型コロナと向き合う苦しみはいかばかりか。今回は80代の老母と50代の独身男性の親子新型コロナ闘病記をお伝えする。

 東日本の大学病院で30年以上、事務職員として勤めた私(55歳)は、糖尿病患者でコロナ重症化リスクが高い。6年前、離婚を転機に、母(85歳)と2人暮らしが始まった。母が要介護になり昨年転職。新たな職場はテレワーク中心で、外出は極力控えた。しかしある日、発熱、咳、鼻水の症状が続く。

 病院の医師に電話で相談し、すぐにPCR検査を受けた。2時間後に陽性が判明。翌日、コロナ隔離病棟に入院した。濃厚接触者の母も同じような症状がある。翌日、PCR検査で陽性が判明。1日遅れで同じ病棟に入院した。

 私は肺の画像で中等症の診断だった。抗ウイルス剤「レムデシビル」を5日間点滴投与。軽快し、10日で退院となった。母は軽症のため同薬が使えず、症状は数日続き、重症化懸念が高まった。その後の再検査で中等症と診断され、私に遅れること1週間で「レムデシビル」投与を開始。5日たっても症状が続いたため、さらに5日間投与を延長。ようやくゆっくりと回復し、計23日で退院した。

 ドキッとした。打ち合わせ中に携帯電話が鳴る。画面を見る。「マンション管理室」からだ。「母の身に何かあったか」「転倒して頭を打ったか」「腰を骨折したか」「退院直後のコロナ再発、重症化か」……最悪のシナリオが頭をよぎる。電話に出た。

管理人「洗面所で滑って起き上がれない、助けて欲しいとお母さまから連絡がありました。すぐに戻れますか?」

私「急いでも1時間ほどかかります」

管理人「では、いまから合鍵で入って救助します」

私「よろしくお願いします。救急車の要請など、ご判断お任せします」

管理人「はい。また状況ご連絡します」

 5分後、携帯が鳴る。コロナ後遺症でバクバクする心臓がさらに高鳴る。

管理人「玄関のドアを開けたら、すぐ目の前でしゃがみ込んでいました。起こして差し上げると、もう大丈夫とおっしゃり、杖と手すりで歩き始めました。頭も腰も打っていません」

私「ありがとうございました。お騒がせして申し訳ございません。安心しました」

 骨折はしていなかった。ホッとした。母は昨日退院したばかり。しゃがみ込んだ場所には手すりがあったが、起き上がれなかった。23日間ほぼ寝たきりの入院で、足腰も上腕の筋力も衰えていたのだ。筋力をアップする必要がある。通所半日デイサービス、訪問リハビリを再開したい。母も筋力の衰えを自覚し、私の提案に同意した。

■食器を洗っているだけで鼓動が高まりめまいに襲われる

 母の退院時、医師から「筋力が低下している。外出を控え、室内で徐々に回復させる」「パルスオキシメーター(血中酸素濃度測定器)で95未満が続き、発熱、息切れがあればすぐに連絡を」「水分を十分に取る」との指導があった。母を1人にして外出するには早かった。身近でウオッチすべきだった。大きな誤算だった。

 腰部脊柱管狭窄症の母は、5年前に車いす生活を経験している。通所半日デイサービス、訪問リハビリを集中した。3カ月ほどの短期間で車いすを脱出できた。それ以降は杖歩行だ。

 母の転倒騒動の時、私は退院後2週間目だった。後遺症で常に心臓がバクバクする。食器を洗うだけで鼓動が高まる。めまいもする。大地震後、余震が続くような感覚だ。熱、咳、のど痛は入院前半で治まった。味覚・嗅覚障害は入院前後から今に至るまでない。医師が診たコロナ患者の中には後遺症に苦しんでいる人もいるそうだ。母と私は良好な部類という。

 この日は打ち合わせで退院後、初めての出勤だった。駅の階段で息切れする。厚労省のガイドラインでは、退院後すぐに出勤してもよいとしている。一方、病院は「1カ月間の健康観察(=自宅療養)」を推奨する。1日2回の検温と健康観察(咳、呼吸困難、鼻汁鼻閉、咽頭痛、頭痛、倦怠感)の記録を1カ月後の次回外来で提出する。

 感染対策を完璧にしたい医療現場。働かなければ生きていけない現実。二律背反のジレンマがある。

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