進化する糖尿病治療法

食事は「一汁三菜の時は少なくとも2品はノンオイル」で

食の意識改革を
食の意識改革を

 糖尿病というと「食事制限が大変な病気」という印象を持っている方が多いかもしれません。糖尿病と診断された患者さんの中には「好きなものが食べられなくなる」と肩を落とす方もいます。

 しかし実際のところ、糖尿病だからといって「食べてはいけない食品」はありません。もちろん糖尿病が進行し、合併症のひとつ「糖尿病腎症」を発症すると、肉や魚、大豆・大豆加工食品といった高タンパク質の食品は摂取量が制限されます。それでも「高タンパク質の食品は食べてはいけない」とはなりません。量は少なめになるものの焼き肉も食べられます。

 糖尿病患者さんに求められる食事は、「さまざまな食品をバランスよく食べる」。肉に偏る、甘い物を食べ過ぎる、一食の大半をご飯や麺類などの糖質が占める――などは避けることです。

 理想は主食(ご飯や麺類などの糖質)、肉または魚料理が1品、野菜、キノコ、海藻類、大豆・大豆加工食品の料理が複数品。そして、一日のうち1~2回は卵料理や汁物を食べる。

 もし牛丼が食べたいなら、丼ではなくお茶碗に軽く一膳にし、牛肉のほかホウレン草のおひたし、ワカメの酢の物、ひじきと大豆の煮物、冷ややっこ、野菜たっぷりの味噌汁などをプラスする。

 自炊しない人では、理想的な献立をパパッと考えるのは難しいかもしれません。それなら、「主食だけでお腹いっぱいにしない。おかずに肉系または魚系の料理1品、肉系または魚系以外の料理1~3品」といったふうに考えればいいでしょう。

■糖尿病をきっかけに考えて欲しいこと

 ある糖尿病患者さんは、好きな漫画に出てきた献立法を参考にしていました。それはテレビドラマ化もされたよしながふみさんの「きのう何食べた?」で、主人公が料理を作るときに意識しているもの。具体的には、一汁三菜の献立の時は「少なくとも2品はノンオイル」にし、夜8時半以降に夕食を食べる時は白飯を食べない。おかずは「甘じょっぱい」「しょっぱい」「すっぱい」のバランスを取り、どこかに緑黄色野菜を入れる。

「少なくとも2品はノンオイル」というのは、一汁三菜で味噌汁とおひたしを食べるとすると、あとの2品はハンバーグやマヨネーズを使った料理でOKということ。メインが焼き魚なら、副菜1品は冷ややっこやおひたしのノンオイル料理、残りは野菜炒めや油で炒めて作る豚汁などにする。

 この方法、外食時にも役立ちますよね。厳密でなくてもいいんです。「少なくとも2品はノンオイル」を頭の片隅に置いておけば、「かき揚げそばとカレーの組み合わせはまずいな」となるでしょうし、「パスタとドレッシングたっぷりのサラダでは、どちらもオイルもの。せめてサラダはドレッシングなしにしよう」となるでしょう。

 私たちは、生きている限り食べる行為と縁を切れません。「好きな食べ物」「好きな味付け」「好きな献立」は、その人が長年積み上げてきたものでできています。

 糖尿病をきっかけに考えて欲しいのは、「あなたが好きな食べ物、好きな味付け、好きな献立は、本当に体が求めているものですか?」。

 こってり脂っこい料理が好きで、空腹時にはスナック菓子を1袋食べてしまっていた方が、糖尿病を発症し、栄養士から食事指導を受ける中で、「なんで今まで無意識にスナック菓子を食事代わりに食べていたんだろう」「そういえば、いつも揚げ物入りの弁当ばかり選んでいた」と気付き、食事内容を変えたら、便秘や吹き出物、頭皮や顔の皮脂のベタつきが改善されたケースもあります。体が求めている食事ができた結果でしょう。

 糖尿病は、好きなものを食べられなくなる病気ではなく、食の意識改革ができる病気。健康寿命を手に入れるための、スタート地点に立ったとも言えます。ぜひ、長続きできるもので無理なく実践してください。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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