心不全の「和温療法」重症者が劇的に改善するケースもある

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 心臓病改善に効果がある“サウナ”がある。一般的なサウナとは違い、綿密な研究のもと開発されたもので、「和温療法」という。心不全治療に関しては健康保険が適用される。最近は、新型コロナウイルスの後遺症である筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群にも効果があるとの報告があり、注目されている。どういうものなのか?

 和温療法は、鹿児島大学病院(当時)の鄭忠和医師が開発した心不全のための治療法だ。室温60度のサウナ室で15分間体を温め、サウナ室から出た後は30分間、毛布などで覆い保温する。その後は、水を飲む。

 心不全は、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、次第に悪くなって生命を縮める病気だ。和温療法をすると、血管が広がり、血液が流れやすくなって心臓の負担が軽減される。心不全がある程度進んだ段階でも、効果が見られる。

 2009年から和温療法を導入している埼玉医科大学国際医療センター重症心不全・心臓移植センターの村松俊裕教授は、印象に残る2人の患者がいるという。

「ひとりは別の病院からの紹介で来院した当時50代の方で、かなり重度の心筋梗塞から心不全に至り、1年間で4回入退院を繰り返していました」

 村松教授は心不全の標準的な薬物療法を行った上で、和温療法を実施。心不全の状態を示すホルモン、BNP値が劇的に良くなり、退院後も週2回継続。現在まで10年以上続けており、この間、入院はほとんどない。

 心不全は再発ごとに坂道を転げ落ちるように悪化していく。

「1年間で4回入退院を繰り返していた方で、その後入院がほぼなくなるのは、和温療法の効果を顕著に表しています」

 もうひとりは、別の病院から転院してきた当時60代の重症拡張型心筋症の患者。

 致死性の不整脈を繰り返しており、点滴で強心薬を投与。通常は7~10日ほどで終了できるが、6カ月間やめられず、やっとやめて退院できたと思ったら、すぐに再発し入院となった。

「この患者さんは和温療法を始めると、強心薬を2週間で離脱できました。前回の6カ月と比較すると大幅に期間が短くなったのです。BNP値は2カ月間で4000から400に。400でも高いものの、元の数値の10分の1に下がり、退院後も週2回の和温療法を継続しました」

 村松教授はこれまで約60人の患者に和温療法を行っているが、たいていの患者でBNP値が良好に減少し、再入院率抑制という結果を得ている。

■呼吸が楽になって動けるようになる

 和温療法のメリットは、前述の通り血管が広がって、血液が流れやすくなり、心臓の負担が軽減されること。

 さらに長期的なメリットとして、血管内皮細胞から産生される一酸化窒素(NO)が増えること。NOには、血管の収縮・拡張のコントロール、血小板凝集抑制による動脈硬化予防などの効果がある。

「和温療法を受けると呼吸が楽になって動けるようになります。それによって、心不全の欠かせない治療である運動療法に積極的に取り組めるようになる患者さんも少なくありません」

 和温療法は基本的には病院で受けるものだが、自宅で応用する方法もある。脱衣所、浴室を事前に温め、湯船に張った41度のお湯で10分間半身浴する。上半身には冷えないようにタオルをかける。浴槽から出たら体をよく拭いて服を着て、毛布で体を覆い30分間横になる。最後に水を飲む。

「湯温が42度になると心臓に負担をかけるので危険です。41度という湯温は必ず守ってください」

 和温療法は、一般的なサウナとはまったく別のものだ。温度も、時間も、すべてエビデンスに基づいている。

 一般的なサウナで心臓病を治せる、と誤解してはいけない。

●心不全
 高血圧、糖尿病、脂質異常症などが最初の原因。そこから心筋梗塞や心筋症などの心臓病を起こし、その後の治療が不十分だと、急性の心不全(急性心不全)を起こし、慢性化する(慢性心不全)。再発→入院→退院を何度も繰り返し、それにつれてどんどん心臓が悪くなり、最終的には治療法がほぼなくなり死に至る。

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