最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

家族をちゃんと家で看取れるか 心配な時はどうすればいい?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 自分の死に場所は病院になるだろうと考えている人は多いのではないでしょうか。しかし、病院死と在宅死の割合が逆転し始めたのは1970年代の後半辺りから。現在では病院死が7割を超えていますが、50年ほど前までは、みんな当たり前のように自宅で家族に看取られて亡くなっていたのです。

 昔の日本人はいい意味で、死を家の中で身近に感じながら生活していたわけです。今は身近な人が死ぬところを見たことがない人が大多数です。そういった人が、いざ自分の夫や親が急変し重篤となった時、慌てて救急車を呼んでしまうのは、致し方ないのかもしれません。

 人間の死には4つのパターンがあるといわれています。「突然死」「経過の予後予測が比較的容易ながん末期」「状態が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら緩やかに弱っていく臓器不全」「老衰」です。

 在宅医療を受ける人には、ほとんど突然死はありません。大抵は終末期を2~3カ月間、自宅で過ごし、旅立っていきます。がん末期や徐々に落ちていく死は穏やかな死なので、自宅でも十分に診られるのです。在宅医師も大体の予後や経過が想定できます。その時の心構えなども折を見て伝えるので、ご家族も慌てることなく穏やかな看取りができます。

 こんなケースがありました。60代前半の男性で肺がん末期。在宅医療に興味があるものの、当初、奥さまが在宅医療に非常に不安を抱えていたので、私たちは何度も説明を行いました。

 具体的には、訪問の頻度(患者さんが歩いてトイレまで行けたら週1回、ベッド生活中心だと週2回といったふうに)、在宅医療よりも病院の方がよいとなればすぐに再入院のお手伝いができる体制であること、自宅で家族が常にそばにいる環境が患者さん本人にとってみれば一番安心であること……などです。

 すると、患者さん、奥さま双方が「一度家に戻ってみよう」となり、実際に自宅で過ごし始めると、息子さんや娘さんが頻繁に訪れて賑やかな日々。このまま自宅で過ごしたいとなって、そのためにどうすればいいのだろうかという思考にご家族の考えが変わっていきました。

 本格的に在宅医療に切り替えた後も、患者さんやご家族の状況に合わせて治療のやり方をそのつど柔軟に変えていきました。

 奥さまが薬局に薬をもらいに行くのが大変になったなら訪問薬局を導入したり、飲み薬がつらかったら貼り薬に替えてみたり。途中、奥さまが「自宅で本当に看取りをできるのかしら」と心の内を漏らされた時は、今後の経過について、どういう状態になっていくかなどをiPadでイラストなどを見せながら説明しました。

 こうしてご家族の不安や不便を取り除きながら、約1カ月後に最期の時を迎えました。

 在宅医療は患者さんの経過に合わせて一緒に寄り添う医療です。自宅に帰りたいという気持ちがあるなら、帰りましょう。不安があっても大丈夫。プロのチームが支えますから。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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