病気を近づけない体のメンテナンス

気道<上>専門医が教える いびきを解消する5つの就寝前舌トレ

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写真はイメージ(C)PIXTA

「いびき」は睡眠時に呼吸する際、「気道」が狭まった箇所を空気が通過するときに生じる摩擦音で、条件がそろえば誰にでも発生する可能性がある。自分ではなかなか自覚しにくいので、家族から指摘されて「自分はいびきをかくのか」と漠然と認識している人も多いはずだ。しかし、いびきがやっかいなのは周囲に迷惑をかけるだけでなく、放置していると「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」を引き起こす恐れがあるからだ。

 SASは睡眠中に一定時間(医学的には10秒以上)呼吸が止まったり、いびきをかいているときの低呼吸の状態を何度も繰り返す病気。睡眠が障害され、夜間の頻尿、日中の強い眠気、起床時の頭痛などの症状が出る。

 ただそれだけでなく、持病も悪化させる。日本睡眠学会専門医で「RESM新横浜/睡眠・呼吸メディカルケアクリニック」(横浜市)の白濱龍太郎院長が言う。

「SASは循環器系の疾患をもたらすのも特徴のひとつで、症状が進むと血圧の上昇や、心房細動などの不整脈を起こす確率を高めます。動脈硬化も進行させて、狭心症や心筋梗塞といった心臓病の発症を引き起こします。さらに、糖尿病などの代謝系の疾患のリスクが増加するという研究結果も発表されています」

 また、いびきはかいている本人だけでなく、同じ部屋で寝ている家族やパートナーにもストレスを与え、血圧を上昇させてしまう事例も確認されているという。SASは軽症者や自覚症状のない予備群も含めると、日本人の5人に1人が患っているといわれている。そのうち専門医療機関による治療を必要とする人は推定340万人とされるが、実際に治療を受けている人は約40万人しかいないという。高血圧や糖尿病などの持病があっていびきをかく人は、SASの疑いを医療機関で調べてもらった方がいい。

 では、睡眠中に鼻や喉の気道を狭くしてしまう原因には、どんなものがあるのか。

「主な原因は身体的なもので、骨格や体形が大きく影響してきます。骨格的に顎が小さい人、舌や喉ちんこの大きい人、へんとうが腫れやすい人は、特にいびきをかきやすいと考えてください。それと、何といっても肥満があると、喉回りに皮下脂肪がつき過ぎて気道が狭くなり、より一層いびきをかきやすくなります」

 ただし、痩せているからといって、いびきをかかないわけではない。日本人のSAS患者の3割は「痩せ形」であることが分かっているという。アレルギー性鼻炎などの鼻疾患がある人も、口呼吸が主体になるのでいびきが出やすくなる。また、年を取るほどいびきをかく人の割合は上昇する。

「それは加齢による筋肉の衰えが、舌にも影響してくるからです。舌の筋肉が緩くなると、舌が喉の奥に入ってしまう『舌根沈下』という現象を招き、気道が狭くなっていびきが出るのです。これは、痩せている、太っているとは関係なく、年を取れば誰でも起こり得ることです」

 このようにいびきの原因はさまざまだが、軽症で「病院に行くほどではない」という人は、白濱院長が考案した「いびき解消メソッド」を試してもらいたいという。これは「就寝前の舌の筋トレ」「就寝時のシムスの体位」「起床後の1杯のみそ汁」の3つの習慣になる。

 まず、「舌の筋トレ」は舌の筋肉を鍛えて舌根沈下の抑制を目指す。やり方はこうだ。

①舌の前後運動

 口を開けて舌を前に突き出して5秒キープ、引っ込めて5秒キープ(舌の先端を上の歯の裏にくっ付けて、そのまま後ろに引っ張る感じで)を3セット繰り返す。

②舌の上下運動

 口を開けて、舌を上顎に押し付けて10秒キープ、舌を下顎に押し付けて10秒キープを3セット行う。

③舌の回転運動

 口を閉じたまま口の中で、舌で歯の表面と歯茎をなめ回す感じで、ゆっくり舌をグルッと回転させる。これを3回繰り返す。

④舌、顎の運動

 口を大きく開けて「あーいーうーえーおー」と言いながら、顔と口の筋肉を大きく動かす。舌や顎を痛めないように、無理のない範囲で3回繰り返す。

⑤頬の運動 

 口を閉じて頬を大きく膨らませて5秒キープ、口をすぼめて5秒キープ。これを3セット繰り返す。

 この5つの運動は、毎日のルーティンとして習慣化しやすいので、就寝前に行うことを推奨している。

 次回は、「就寝時のシムスの体位」と「起床後の1杯のみそ汁」を解説してもらう。

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