新型コロナウイルス感染症に対する治療薬の候補に「イベルメクチン」があります。イベルメクチンは、2015年にノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智博士によって発見された物質で、医療現場では抗寄生虫薬(主に疥癬〈かいせん〉の治療)として用いられています。同薬はまた、抗ウイルス作用が知られており、いくつかの探索的な研究では、新型コロナウイルス感染症患者における重症化のリスクを低下させる可能性が報告されています。
ネット上でもイベルメクチンの早期承認を求める記事が注目を集めている中、新型コロナウイルス患者に対する同薬の有効性を検討した研究論文が、米国医師会誌の電子版に2021年3月4日付で掲載されました。
この研究では、症状が軽度の新型コロナウイルス感染症患者400人(年齢の中央値37歳)が対象となりました。被験者はイベルメクチンを5日間にわたり投与するグループと、プラセボ(薬効成分が含まれていない偽薬)を投与されるグループにランダムに振り分けられ、21日以内の症状消失が比較されています。
その結果、症状消失までの期間(中央値)はイベルメクチンを投与されたグループで10日、プラセボを投与されたグループで12日と、イベルメクチンを投与されたグループで短い傾向にありましたが、統計的に有意な差を認めませんでした。
つまり、イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症の症状消失を早めるかどうかは分からないという結果です。少なくとも、重症化リスクを低下させたり、死亡リスクを減らすというものではありません。
治療効果に関心が集まったイベルメクチンではありますが、社会が期待しているほど大きな効果は得られないと考えた方がよいでしょう。
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