加齢黄斑変性症と新型コロナの関係 重症化しやすく死亡率増

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 いまや世界最大の新型コロナウイルス感染国となった米国。その数は3000万人に迫る勢いで、世界の感染者数全体の25%弱を占める。その米国の眼科専門医の間では最近、「新型コロナ感染症と加齢黄斑変性症との関係」が注目されているという。どういうことか。日本眼科学会眼科専門医で「清澤眼科医院」の清澤源弘院長に聞いた。

 多くの米国眼科専門医が新型コロナ感染症と加齢黄斑変性症との関係を気にしている。それは米国眼科学会が3月10日付で発したホームページを見れば明らかだ。わざわざ「加齢黄斑変性症のある人は新型コロナウイルスの強い合併症を起こしやすいのか?」という記事をアップしているからだ。

 加齢黄斑変性症とは、ものを見る時に重要な働きをする網膜の中心部分である黄斑という組織が、加齢とともにダメージを受けて変化、視力の低下を引き起こす病気のこと。遺伝的要因と環境要因が関係するといわれる。日本では平均寿命の上昇と生活様式の欧米化により発症率が増加していると考えられ、中途失明原因の第4位となっている。

「米国の眼科医が心配しているのは、この病気が欧米では中途失明原因の第1位の深刻な病気であり、患者数が多いこともさることながら、慢性炎症への関与が示唆されているからです。そのため加齢黄斑変性症の患者が新型コロナ感染症にかかると、この病気でない人に比べて症状が激しくなる可能性が考えられているのです」

 これに関連して昨年8月の「ネイチャー・メディシン」という権威ある欧米の医学雑誌に注目すべき論文が掲載されている。

 コロンビア大学アービング医療センターが米国のニューヨーク州内の病院に入院した6398人を対象に新型コロナ感染症患者の調査を行ったところ、加齢黄斑変性症の患者は88人いて、うち19人が気管挿管が必要となったことなどを報告。血小板減少症や血栓症などの血液凝固に関わる疾患と同様に新型コロナ感染症の重症化リスクが高いことを示唆している。それも、他の患者よりも早く重症化しやすく、死亡する割合が3倍高かった。

「米国眼科学会のホームページの記事は、この論文の反響が大きく、眼科専門医の団体として無視できなくなったのではないでしょうか」

 もちろん、米国眼科学会のホームページでも触れているように、加齢黄斑変性症の患者は高齢で、同時に糖尿病や高血圧など新型コロナの感染・重症化リスクを抱えていることが多い。しかも、88人のデータだけでは加齢黄斑変性症だけが新型コロナ重症化の直接のリスクとは言い切れない。ホームページの記事が「加齢黄斑変性症の患者の新型コロナ感染症合併リスクを明らかにするには、より大規模で詳細な研究が必要です」と控えめな表現となっているのはそのためだ。

■炎症を調整するタンパク質の関連遺伝子が影響?

 では、なぜ、加齢黄斑変性症の患者は慢性炎症が起きていると考えられるのか?

「じつはこの病気の発症メカニズムを解明するため、加齢黄斑変性症の患者とそうでない人とそれぞれゲノムを詳しく調べる研究(ゲノムワイド相関解析)が進められていて、2005年には加齢黄斑変性症に深く関連している特殊な変異がCFH遺伝子中に確認されたとの研究報告がなされています。研究ではこの変異により、発症リスクが3~7倍高くなるとしています。このCFH遺伝子は、補体系という免疫系の一部の中で炎症を調節するタンパク質の産生に関与することがわかっています」

 その後、ARMS2遺伝子も発症に関わることも報告された。

「ARMS2遺伝子の機能に関して複数の報告があるものの、眼内での働きはよくわかっていません。しかし、CFH遺伝子とは別の形で、補体に関する炎症の制御に関わっていることが明らかになっています」

 加齢黄斑変性症が慢性炎症性疾患であることは全身炎症の指標であるCRP値の上昇から明らかになっている。白人を対象とした研究ではCRP値とCFH遺伝子多型とは相関関係があることが報告されており、炎症は目に限局したものではないと考えられている。

 炎症が怖いのは本来、体に異物が侵入してきた時の警報役として機能すべきサイトカイン(細胞同士がシグナルをやりとりする時に使うタンパク質)が過剰に作られて炎症を広げるだけでなく、インスリンの効き目を悪くしたり、血管の透過性を高めて白血球が血液内で集まりやすくなり、血液が凝固しやすくなったりして組織の機能を低下させてしまうからだ。

 加齢黄斑変性症の人は新型コロナ感染症に、より警戒した方がいいかもしれない。

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