Dr.中川 がんサバイバーの知恵

中小企業の実施は46%どまり「がん検診」の導入が進む工夫

写真はイメージ
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 皆さん、がん検診を受けていますか。大企業の方は、企業健診として人間ドックを用意しているケースも多く、その中にがん検診メニューが含まれるかもしれません。中小企業の方はどうでしょう。がん対策推進企業アクションと大同生命の合同調査で興味深い結果が分かりました。

 注目は、がん検診の実施率です。実施の有無に関する質問で「実施している」は46%にとどまりました。特に企業規模が小さいほど、その傾向が強く、従業員5人以下はわずか37%と3社に1社です。

 経営者の意識はどうかというと、直近2年にがん検診を受診した割合は72%。企業としてのがん検診実施率に比べるととても高く、経営者の年齢が高いほど受診率もアップします。

 業種別で受診率が低いのは宿泊・飲食サービス業で27%と断然少ない。人手不足が伝えられている業種で、毎日の仕事に忙しく、がん対策にまで気が回らないのかもしれません。そこに昨年はコロナ禍が直撃。院内感染を嫌い、受診を控える動きが拡大したことも、受診率の低さに拍車をかけたのでしょう。

 大企業より中小企業の方が、社員の離脱の影響は重くなります。それが中枢の社員なら、事業に与えるインパクトも大きい。そう考えると、中小企業もがん検診が欠かせません。きちんと検診を受けていれば、早期発見で短期間で治る確率が高まりますから。

 でも、現実はそうなっていません。がん患者がいる、またはいたケースは25%で、そのうち32%が退職せざるを得なくなっています。

 実は私の実家も社員10人ほどの零細企業だったので、今回の調査で浮き彫りになった現実がよく分かります。祖父や父は人間ドックを受けていた半面、社員には何もしていないという感じでしたから。

 そんな状況を見ていただけに、解決策も提案できます。自治体のがん検診の活用です。料金は無料かワンコイン。費用負担を嫌う企業としてもハードルは低い。

 小田原にある知人の中小企業は、がん検診の受診率が100%です。社員全員が自治体のがん検診を受けています。知人に聞きました。100%達成の秘密は、受診を業務扱いにしているというのです。

 会社員は、企業健診を受けるため、自治体の検診を受けられないと誤解している人がいますが、そんなことはありません。その誤解を解いて、社員に率先してがん検診を受けてもらうには、検診受診を業務扱いにするのが大きなポイントになります。

 妻ががんになると、夫も仕事になりません。配偶者もセットで自治体検診を受診する仕組みも用意することをおすすめします。中小企業の皆さん、会社にこの仕組みがなければ、ぜひ社長に提案してください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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