進化する糖尿病治療法

ダイエットのためには脂質より炭水化物を制限すべきか

バランスよく食べることが大切
バランスよく食べることが大切

「糖尿病対策に、炭水化物(糖質)制限が有効」と考えている人が、今でもいます。しかし、日本糖尿病学会では「総エネルギー摂取量を制限せずに、炭水化物のみを極端に制限して減量をはかることは、その効果や安全性を証明するエビデンスが不足しているので、現時点では推奨できない」といった内容の提言を示しています。

 2型糖尿病の治療では、体重を適切な範囲に保つことが不可欠です。では、減量のために脂質を制限すべきか、炭水化物を制限すべきか? 

 有名なのが、アメリカの心臓外科医であるアトキンス医師の減量法です。炭水化物を1日20~40グラムまでに制限し、肉や乳製品などのタンパク質や脂質は好きなだけ取っていいというもの。

 2003年、04年には世界的に権威のある医学誌に「BMI30以上の肥満者に炭水化物を1日50~60グラムに指導し、摂取エネルギーは自由にしたところ、総エネルギー制限と脂質制限を指導した群より6カ月で有意な体重減少をきたした」という発表が掲載され、注目を集めました。1日50~60グラムの炭水化物というと、ご飯茶碗1杯(ご飯150グラム)程度。1日1回だけ主食を食べる、または1回分の主食を朝昼夜に分けて食べる、ということになります。

 しかし06年、複数の研究結果を総合し、より高い見地から分析する「メタ分析」の結果が報告されました。

 それによると、低炭水化物食で6カ月までは有意な体重減少をもたらすが、1年で両群に差はなくなり、低炭水化物食では血中LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の増加をきたしていました。

 低炭水化物食の長期効果を見いだせなかった理由としては、症例数の少なさと高い脱落率を挙げています。さらに、摂取エネルギーを自由にした研究では、総エネルギー摂取量がどれくらいだったかの記載に乏しい点も指摘しています。つまり、「炭水化物さえ制限すれば、好きなものをいくら食べても痩せられる」とは言えない、ということです。

 それ以降の低炭水化物に関する研究発表も、「特定の栄養素の糖尿病状態に及ぼす影響を見いだすことは困難」「炭水化物制限が高血糖やインスリン感受性の改善をもたらすが、症例数と観察期間が不十分、脱落率が高いなどでエビデンスとしての質的な問題点がある」といった内容。

 炭水化物摂取量と心血管疾患のリスク、死亡率との関係について、日本人研究者が従来の研究のメタ分析をしたものでは、低炭水化物食では心血管疾患は減らず、総死亡率は有意に増加したと報告しています。

■主食でお腹を満たせない分、おかず量を増やしてしまうと…

 日本糖尿病学会の提言とは別に、糖尿病医の中にも、低炭水化物食賛成派がいます。

 しかし私は、積極的な低炭水化物食には反対。これまでの本欄で述べてきた通り、特定の栄養素を極端に減らすのではなく、バランス良く食べることが大切だと考えています。

 実際、炭水化物を制限している人の食事は、動物性タンパク質や脂質の量が多い。

 主食でお腹を満たせない分、おかずの量を増やしてしまうからでしょう。動物性タンパク質や脂質の量が多くなれば、動脈硬化が進行し、心血管疾患のリスクが高くなります。

 糖尿病における3大栄養素の推奨摂取比率は、一般的に、総摂取エネルギーのうち、炭水化物50~60%、タンパク質20%以下が目安で、残りが脂質。これは日本人の平均摂取比率ですので、毎食ご飯茶碗1杯程度というように「普通に」食べていれば、自然とこの比率になります。

 腎機能が低下傾向の方、SGLT―2阻害薬を内服している人など、医学的に炭水化物を避けなければならない人もいます。しかしそうでなければ、積極的な低炭水化物制限はお勧めしません。もし低炭水化物食に取り組んでいるなら、今日からやめることを強くお勧めします。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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