病気を近づけない体のメンテナンス

気道<下>睡眠時無呼吸症候群を和らげる「シムスの体位」

写真はイメージ
写真はイメージ

 寝ているときに、鼻や喉の空気の通り道である「気道」が狭くなって生じる「いびき」。放置していて怖いのは「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」を引き起こす恐れがあるからだ。

 SASは、睡眠中に一定期間呼吸が止まったり、いびきをかいたりしているときの低呼吸の状態を何度も繰り返す病気。睡眠が障害されるので「夜間の頻尿」「日中の強い眠気」「起床時の頭痛」などの症状が出る。症状が進むと、血圧を上昇させたり、動脈硬化を進行させたりするので、心疾患や糖尿病などの発症リスクを高める。

 いびきの原因には、「骨格的に顎が小さい」「舌や喉ちんこが大きい」「へんとうが腫れやすい」などさまざまだが、最も影響しやすいのが「肥満」。喉回りに皮下脂肪がつき過ぎて気道が狭くなり、より一層いびきをかきやすくなる。それと肥満の有無とは関係なく、年を取ると誰にでも起こり得る「舌根沈下」という現象がある。加齢によって舌の筋肉が緩くなり、睡眠中に舌が喉の奥に落ち込んでしまうのだ。

 そこで前回はいびき対策として、舌の筋肉を鍛えて舌根沈下を抑制する「就寝前の舌の筋トレ」のやり方を紹介した。

 加えて試してもらいたいのが「就寝時のシムスの体位」と「起床後の1杯の味噌汁」の習慣だ。

 この3つの「いびき解消メソッド」を考案した日本睡眠学会専門医で「RESM新横浜/睡眠・呼吸メディカルケアクリニック」(横浜市)の白濱龍太郎院長が言う。

「『シムスの体位』とは、妊娠中期以降のお腹の大きくなった妊婦にとって寝やすい睡眠時の体位で、体を横向きにして寝て、上側に来る脚の膝を曲げて前に出し、下側にくる脚を真っすぐ伸ばします。心不全など心臓の持病がある方は、横向きでの睡眠が負担になることもあるので注意が必要です。もともとは直腸検査をするときや昏睡状態の人の気道を確保するときに用いられる姿勢で、体の緊張がほぐれ、リラックスした状態で眠ることができるのです。これもいびきの悩みを持つ人にとって有効で、舌根沈下を防ぎ、スムーズな呼吸を促します」

 このシムスの体位を睡眠時にクセにすることがいびき対策になるのだが、睡眠中にその姿勢を意識的に維持するのはなかなか難しい。それをサポートしてくれるのが「抱き枕」の利用だ。抱き枕がない場合は、夏用の布団を丸めてバスタオルでくるみ、両側をヒモで結んで代用品を自作するのでもいい。また、クッションを膝の下に置いたり、脚の間に挟んでも姿勢がキープしやすい。

 あおむけになることを防ぐために、背中側にストレッチポールを置いたり、ストッキングに入れたテニスボールをウエストの後ろに巻いたり、タオルを詰め込んだリュックを背負って寝たりすることも有効だ。

■睡眠の質を上げればいびきも解消する

 呼吸をスムーズにしていびきを減らす睡眠を取ることは、実はいびきの原因となる肥満の防止と密接な関係がある。それは睡眠の質が低下すると太りやすい体質になるからだ。

 睡眠には大きく分けて「レム睡眠(浅い睡眠)」と「ノンレム睡眠(深い睡眠)」がある。

 眠りに就くとまずノンレム睡眠が訪れ、続いてレム睡眠が訪れるという繰り返しが約90~120分間隔で起こる。しかし、いびきや無呼吸があると眠りが浅くなってノンレム睡眠を妨げるのだ。

「ノンレム睡眠が減ると基礎代謝量が落ち、食欲を抑制するホルモンのレプチンの分泌が低下し、食欲を増進させるホルモンのグレリンの分泌が増加します。すると満腹中枢に誤作動が起き、満腹なのに食欲が湧いてしまうのです。結果、太りやすい体質になり、いびきやSASの原因を増長させてしまうのです」

 いびき解消メソッドの3つ目の「朝食に1杯の味噌汁を飲む」習慣は、直接的にいびきを減らす方法ではない。目的は「良質な睡眠をもたらす」ため。眠りが浅いレム睡眠時には、いびきや、無呼吸が発生しやすくなる傾向があり、睡眠の質を高めることがいびきの軽減につながるという。

「味噌には、必須アミノ酸の一種である『トリプトファン』が豊富に含まれています。そしてトリプトファンは、脳に運ばれることで『セロトニン』という物質に変換され、それが睡眠ホルモンの『メラトニン』の原料になります。その過程は、おおよそ14~15時間かかります。ですから、朝飲んだトリプトファンが、ちょうど寝る頃にメラトニンになるのです」

 味噌が苦手なら、トリプトファンは納豆や豆腐などの大豆製品、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、卵、バナナ、ピーナツなどにも含まれている。これらを朝食で取るといいという。

関連記事